【モスクワ杉尾直哉】ロシア南部・チェチェン共和国のカディロフ大統領が、同共和国に駐留する露連邦軍直属の精鋭部隊「ボストク」と対立、緊張が高まっている。同部隊は大統領の配下になく、5月のプーチン露大統領退任を前に、カディロフ大統領が治安組織の完全掌握を狙っているとの観測もある。混乱が続けば、「チェチェン情勢正常化」を訴えてきたプーチン政権にとって痛手となりそうだ。
報道によると今月13日、大統領の車列とボストクの車両との衝突事故を機に大統領派の治安部隊が15日、ボストクの基地を包囲。双方が発砲する事態に発展した。一方、20日には大統領派の人権オンブズマン代表の車列が銃撃を受け同乗の少女2人が死亡したが、「ボストク側の反撃」との見方が出ている。
ボストクは03年、連邦軍に投降した元チェチェン独立派武装勢力を集め組織された部隊で、司令官を含めチェチェン人で構成。大統領は「ボストクの連隊長は殺人や誘拐事件を起こした犯罪者だ」と主張し、行方を追ってもいる。大統領によると、ボストク隊員約1000人のうち350人が21日までに除隊を申し出たといい、多数が大統領派への同調姿勢を見せている。
91年に独立宣言したチェチェンに対し、ロシアは94年から2度、軍事介入。プーチン政権は正常化のため03年、穏健派イスラム教指導者を初代大統領に。だが初代大統領は04年のテロで爆死した。現大統領はその息子で、07年4月の就任以降、独立派勢力の大型テロはない。現大統領は、プーチン大統領への忠誠を示しながら、連邦政府が吸い上げる地元油田の利権分配を主張してもいる。また、私兵組織による住民弾圧も批判されている。
毎日新聞 2008年4月23日 20時06分(最終更新 4月24日 0時09分)