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議論に勝つ常識
2008年版
[医療危機についての基礎知識]
[基礎知識]医師は不足しているのか、偏在しているのか?


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「厚生労働白書」
 〇七年九月、厚労省がまとめた〇七年版「厚生労働白書――医療構造改革の目指すもの」は、医療費抑制を前面に出した内容だった。その冒頭では、独特のパフォーマンスで“看板大臣”となった舛添要一厚労相が、〇六年六月成立の医療改革関連法(図表参照)を「国民皆保険制度創設以来の大改革」と自画自賛した。
 さらに、〇六年四月の診療報酬改定を官僚レベルで主導した宮島俊彦・同省大臣官房総括審議官なども、医療構造改革を六一年の国民皆保険の実現、八二年の老人保険法制定に続く「三度目の大改革」と位置づけた同省の考えをいっそう強調し、
〈医療費の適正化を進めるに当たり、若い方の患者負担(現在三割)をさらに上げるのは好ましくない。また、機械的に診療報酬単価を下げる手法では、病院や診療所が潰れてしまう。良質な医療のためには、病院も一定の規模が必要であり、医師、看護師の数をそろえる必要がある。一方で住民の医療確保のためには、地域ごとに、急性期中心の拠点病院から、その病院とつながりを持ち、応急対応が可能な一般病院、そして有床・無床診療所という具合に、再編成しなければならない。医療計画、介護計画、医療費適正化計画の三つをいかに地域ごとに整合性の取れた形に作り上げるかが重要な課題だ〉(「週刊東洋経済」〇六年一〇月二八日号)とした。
 これに対して、前野哲博・筑波大学病院総合臨床教育センター副部長は、
〈医師不足の根源的な問題は絶対的なマンパワー不足にある。我が国の人口あたりの医師数は先進国中最下位のレベルにあり、この解決なくして医師配置を見直しても、「どこの医師を増やすか」イコール「どこの医師を減らすか」の問題になってしまう〉(日本経済新聞〇七年八月五日付)と批判した。
 また、前日本医師会会長の坪井栄孝・日本医療機能評価機構理事長も、
〈まず、必要な医療の中身を議論すべきで、先に費用の枠を決めるというのは間違っている。がん医療も、救急医療も、小児医療も、国民を守るために目指すべき姿があるはずだ。その目標を定めて、実現のために必要な費用を調達するのが政治の役割だ〉(読売新聞〇七年五月一日付)と苦言を呈している。


日本の医療危機・私はこう見る
▼仁木立・日本福祉大学教授(医療経済・政策学)
〈国際的にみると、小泉政権下の五年間でGDPに対する日本の医療費の水準は、G7諸国の中で最低になってしまった。その一方で、医療費中の患者負担の割合は最も高いという歪んだ傾向が強まった。今回の改革で歪みが深刻になる〉(前掲「週刊東洋経済」)
▼荻原博子・経済ジャーナリスト
「経済的な不安と言えば、高齢者にふりかかってくるのは、医療費の負担増だけではない。税金面では、すでに老年者控除の廃止や公的年金等控除の縮小などで八万円前後の増税パンチを受けている老人家庭は少なくなく、さらに今年は、定率減税全廃のパンチを受け、その先には消費税アップが待ち構えている」(「文藝春秋」〇七年三月号より抜粋)
▼遠藤邦夫・矢野経済研究所医療事業戦略部主任研究員
〈〇七年一〜三月の医療機関の倒産件数は二八件で、〇一年以降最多ペースで推移している。仮に〇八年の診療報酬改定が〇六年改定のように引き下げとなれば、日本の医療提供体制が揺らぎかねない危険がある。厚労省が危惧している医療費破綻の前に、多くの医療機関が破綻したり、満足な医療提供を行えないという事態にもなりかねない〉(「エコノミスト」〇七年八月二一日号)
▼NPO法人「医療制度研究会」代表理事の本田宏済生会栗橋病院副院長
〈いま必要なのは、医療の「地方分権」だ。各地域で、病院と診療所、開業医が連携して役割分担を決め、独自の医療システムを構築してほしい〉(前掲読売新聞)
 いずれにせよ、医師不足、医療崩壊といった言葉で象徴される日本の医療危機が本当だとすれば、無責任な政治や官僚にまかせておく時代は過去のものと考えるべきであろう。
『大学病院のウラは墓場』(幻冬舎新書)の著者で、外科医出身の作家、久坂部羊氏はこう見ている。
〈現在の医療に不満のある行政・マスコミ・世論は、簡単には医師を優遇しない。もちろん、医師がよい医療を提供するなら、優遇にやぶさかではないだろう。しかし、その保証がないかぎり、先に優遇だけをよくするわけにはいかない。医師は自分たちが正当な扱い(優遇)を受ければ、よい医療を提供すると主張する。優遇が先か、よい医療が先か。まるで、援助と核廃絶をめぐる北朝鮮との交渉のようだ〉(「中央公論」〇七年六月号)


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論 点 医療の何が危機なのか 2008年版

私の主張
医療費の抑制政策が医師を、看護師を、病院を日本からなくしていく
鈴木 厚(川崎市立井田病院地域医療部長)
生産性の低い日本の医療。超高齢社会に向けて「医療崩壊」は必然である
長谷川敏彦(日本医科大学教授)
医療紛争を司法の論理で解決するなら、患者との摩擦で現場は疲弊する
小松秀樹(虎の門病院泌尿器科部長)


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