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論 点 「医療の何が危機なのか」 2008年版
医療紛争を司法の論理で解決するなら、患者との摩擦で現場は疲弊する
[医療危機についての基礎知識] >>>

こまつ・ひでき
小松秀樹 (虎の門病院泌尿器科部長)
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▼対論あり

全3ページ|1p2p3p
医師の自律的処分制度を信頼回復の礎に
 以上のようなリスクが予見されるなか、医療側は何を為すべきか。最も重要な課題は、医療の質を高めるために、医師の自律的処分制度を設けることである。
 処分のきっかけは事故そのものではなく、医師の不適切な行動とする。申し立て人の対象範囲は患者・家族、医療従事者、病院など、広くする。大切なのは、紛争解決と医師の処分を完全に切り離すことであり、この自律的処分制度がうまく機能すれば、司法側の業務上過失致死傷の考え方に大きな影響を与えられると想像する。
 検事と裁判官の一部を除いて、法律学者、実務法律家(病院側の弁護士も)は、医療現場を自分の眼で観察していない。この状況で医療システムの内部に司法システムを取り込むことは、現在の業務上過失致死傷よりはるかに危険である。
 責任追及のあり方を巡る司法と医療の齟齬は、双方の考え方が異なる以上、考え方の変更なしにいっきに解決することは不可能である。認識の変更を確認しつつ、一段ずつステップを重ねていくべきである。業務上過失致死傷は医療だけの問題ではない。多くの分野を巻き込んだ議論が必要である。法律が存在する以上、当面、医療事故調と関係なく、適用されることになるが、個々の事例で認識の違いが生じれば、その都度、社会に見えるところで議論すればよい。
 医療の問題は、ステークホールダー間の利害調整や、合理的判断を越えた権力の行使によって、無理に解決すべきではない。医療は、そのような危うい決定方法に委ねるには重要すぎる。互いに双方の立場を理解しつつ、多段階で時間をかけて解決していくべきである。
 医療側のとるべき対策の一つは、専門職としての医師の自律的処分制度である。業務上過失致死傷とは無関係に、自律的処分制度を立ち上げて、しばらく運営していけば、おのずと社会の考え方も変化するであろう。変化後に、次のステップの制度を考えればよい。
 司法の、規範(実体法)と対立(手続法)の中に実状を押し込める習慣は、問題解決のための、普遍的というよりも、一つの特殊的態度のように思える。有益な場合もそうでない場合もある。


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推薦図書
筆者が推薦する基本図書
『医療崩壊――「立ち去り型サボタージュ」とは何か』
自著(朝日新聞社)
『グローバル化と法〈日本におけるドイツ年〉法学研究集会』
ハンス・ペーター・マルチュケほか(信山社出版)
『社会の教育システム』
ニクラス・ルーマン/村上淳一訳(東京大学出版会)



議論に勝つ常識
2008年版
[医療危機についての基礎知識]
[基礎知識]医師は不足しているのか、偏在しているのか?



論 点 「医療の何が危機なのか」 2008年版

対論!もう1つの主張
医療費の抑制政策が医師を、看護師を、病院を日本からなくしていく
鈴木 厚(川崎市立井田病院地域医療部長)
生産性の低い日本の医療。超高齢社会に向けて「医療崩壊」は必然である
長谷川敏彦(日本医科大学教授)


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関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

(2007年)コスト削減のためのリハビリ打ち切りは、「弱者は死ね」というに等しい
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(2007年)コストとサービスのミスマッチをただすのが医療改革。「医療難民」は暴論
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(2007年)診療報酬を上げ、医師を増員しなければ、産科・小児科医療は早晩崩壊する
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森 武生(都立駒込病院院長)
(2006年)医療事故をなくすには患者込みのチーム医療と医師免許更新制の実現を
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(2006年)医療費の抑制は超高齢時代の要請――改革の要は効率化と重点化だ
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(2005年)医療事故防止の第一歩はミス隠しの追放――交通事故激減の実績に学べ
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(2005年)無益な研究、猟奇犯罪、詭弁のはびこる実態――大学病院全廃論
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(2005年)大学病院はまだ自己改革の余地がある。予算不足は言い訳にすぎない
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(2004年)放置され続けた一〇年。診療報酬の改善なくして小児救急の充実は不可能
武 弘道(埼玉県病院事業管理者、前全国自治体病院協議会副会長)
(2004年)株式会社の参入と混合診療の解禁が患者に大きな利益をもたらす理由
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(2004年)利益の追求が目的の株式会社が医療に参入すれば患者本位の医療は滅びる
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(2004年)混合診療の解禁は患者を救う。ただし医療内容の評価基準の確立が前提
平岩正樹(医師)
(2004年)超高齢社会の医療保険は医療費を強制貯蓄させるシンガポールに学べ
川渕孝一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授)
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(2003年)医療保険の守備範囲を見直せ――患者に選択の自由と応分の負担を
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(2003年)患者の負担増は不可避。制度の一元化と地方移管で負担の平等と効率化を
西村周三(京都大学大学院経済学研究科教授)
(2002年)医療過誤から身を守るには専守防衛あるのみ――健康管理ノート活用法
森 功(医真会八尾総合病院理事長)
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二木 立(日本福祉大学社会福祉学部教授)
(2001年)医療過誤ゼロは神話――それでもリスク管理の徹底で事故は減る
桜井靖久(東京女子医科大学ME(医用工学)連携ラボ顧問・名誉教授)
(2000年)現在の医療裁判制度は患者に不利――ただちに救済センターを設置せよ
森 功(医真会八尾総合病院理事長)
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川渕孝一(日本福祉大学経済学部教授)
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(1999年)医師がカルテを開示し、患者と情報を共有することが医療の欠陥を正す
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(1999年)カルテが主治医の覚え書きを含む現状では、開示の法制化は早すぎる
開原成允(国立大蔵病院院長)
(1998年)医師側の怠慢追及が第一だが患者側が賢くならねば医療過誤は減らせない
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personal data

こまつ・ひでき
小松秀樹

1949年香川県生まれ。東京大学医学部卒。都立駒込病院、山梨医科大学助教授を経て、現在、虎の門病院泌尿器科部長。2006年に上梓した『医療崩壊』で、勤務医が激務と患者との軋轢のわずらわしさから逃れようと開業医へ転身していく姿を「立ち去り型サボタージュ」と名づけ、話題になった。他の著書に『慈恵医大青戸病院事件』『医療の限界』などがある。




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