・医療費抑制……一九八〇年代半ば以後、日本では世界に類をみない医療費抑制政策が実施されてきた。にもかかわらず、アクセスは制限されず、逆にさらなる質の向上が求められた。このため、勤務医の労働環境は苛酷になった。 ・社会思想……日本人がしばしば死を受け入れられなくなった。不安が医療への攻撃行動を促し、かつ正当化している。また、個人の権利が尊重されるあまり、一部で共生のための行動の制御が失われ、これが医療現場を疲弊させた。 ・マスメディア……情動を主たる関心事とする。個人の理性による制御がなされていない。このため、情動に働きかける記事の機械的大量反復現象が生じる。大衆メディア道徳とでもいうべき現実無視の規範が、責任者なしに一人歩きして、暴力的な影響を及ぼすことがある。 ・厚労省……メディア・政治の激しい攻撃を受け続けてきた。攻撃をかわすこと、すなわち、自己責任の回避が行動原理の一つとならざるをえない状況がある。結果として、現場に無理な要求を押し付けることになる。 ・司法……メディアの感情論の影響を大きく受ける。理念からの演繹で、医療の一部を取り出し、罰を科し、賠償を命ずる。この理念が適切かどうか、医療全体からの帰納で検証する方法と習慣を持たない。 ・医事紛争の公平な処理システムの欠如……無謬を前提としてきたため、科学的な事故調査制度、公平な補償制度、合理的な処分制度がなかった。 ・医療の質向上の努力不足……病院全体の総論的安全対策は大きく改善したが、個々の診療ごとの質改善の努力がまだ不足している。また、医師の質を保証するための制度が不十分である。
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