このように医療界の現状はかなり深刻で複雑である。はたして、「日本の医療は崩壊する」のであろうか。この問いに答えるには現象の背後にある要因を短期・中期・長期に分けて、層を重ねて検討してみる必要がある。 まず短期の要因であるが、人手不足のきっかけとなった二年間の新卒後臨床研修制度は、病院医一六万人の約一割に当たる労働力が突然労働市場から消えたのと同じ状況をもたらした。病院の労働力確保が厳しくなるのは当然である。だとすると、理論的には、全国で見ると、数年後には研修を終えた良質の労働力が市場に帰って来るので、不足の現象は短期的なものになる。 さらに、年間八〇〇〇人の医学生が卒業しているにもかかわらず、ここ五年間は働く医師数の増加は研修医を入れても数千人にとどまっているが、それは第二次世界大戦中に軍医として養成された三万〜五万人の医師が引退する時期と重なったからと想定される。これも、数年で元に戻る可能性がある。 ただ、もともと弱いところだった地方の医師不足や産婦人科などの診療科の偏りは今度の打撃が致命的で、今後は3K職場といわれる外科系の医師がいなくなることが懸念される。
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