医師不足に対して、診療科の偏在を指摘する声がある。研修医が診療科を選ぶ場合、勤務時間や訴訟問題などから仕事のきつい科が敬遠される。外科系は敬遠され、皮膚科や眼科などを選ぶ医師が多くなっている。そのため、必要とされる診療科の医師の数の供給バランスが崩れたのである。しかしそれ以前の根本的問題として、日本の医師の絶対数が足りないことを忘れてはいけない。 日本は世界第一位の長寿国で、乳児死亡率の低さも世界第一位である。このように世界最高の医療を提供しているが、世界保険機関の発表によると、人口一〇〇〇人あたりの医師数はアメリカが二・五六人、ドイツが三・三七人、フランスが二・七人であるのに、日本は一・九八人で一九二カ国中六三位である。同様に看護師数は二七位であり、日本の医療における人的パワーは極めて低いのである。 現在、医療に対する国民の不満が大きい。しかしこれは医療従事者が怠慢だからではない。人的パワーが少なく、死ぬほど働いても患者が満足できる医療を提供できないからである。現場の医師や看護師は過重労働、責任の重さ、書類の山に押し潰されている。患者さんを助けたいという気持ちから医師や看護師になったのに、感謝のない過重労働と患者からのクレームの多さから逃げだそうとしている。 無為無策の厚労省に、医師不足との現状認識はない。彼らの理屈は「病院の半分が廃院になれば、解雇された医師や看護師が生き残った病院に移動するので、医師不足、看護師不足は生じない」である。〇七年の医師国家試験の合格率は八七・九パーセント(合格者七五三五人)で、前年の九〇・〇パーセント(合格者七七四二人)より低下した。もし厚労省が医師不足を真剣に考えているのならば、合格率を上げるはずである。つまり「国民の健康と生命」など少しも考えていない同省の無策を表している。 厚労省は「医師不足を解消するため」として、「一〇の都道府県の医学部の入学定数を、一〇人ずつ一〇年間にかぎり増員してあげる」と傲慢に言っているが、これは医師不足解決のための発案ではない。医師不足という世間の批判をかわすためのアリバイ的発言にすぎない。
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