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母子殺害判決 「命」を貴ぶ判断の重さ2008年4月23日

 元少年に死刑の判決である。山口県光市の母子殺害事件差し戻し控訴審で22日、広島高裁は被害者感情を重視し、「極刑はやむを得ない」と断じた。失われた貴い命の償いに、もう一つの若い命を奪う。判決は法治国家の矛盾も突き付けた。
 母子殺害事件は、未成年に対する死刑の是非も問われた。検察からの死刑求刑に対し1審は無期懲役を言い渡し、2審も支持した。
 だが、最高裁は「特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択するほかない」として、2審判決を破棄し審理を差し戻した。
 最高裁の差し戻しの根底にあるのが、未成年の凶悪犯罪に対する死刑を「可」とした1983年の「永山基準」である。
 差し戻しによって、最高裁は実質的に元少年に死刑を求めた。
 元少年の弁護団は、前科や非行歴もなく、殺害が計画的でないこと、犯行時の年齢、元少年の家庭環境から「母親に甘えたいとの願望から、偶発的に起きた」との情状を訴え、死刑回避を求めた。
 だが、元少年は昨年9月の被告人質問の際、「犯した罪が何なのか、考えてほしい」との遺族の本村洋さんの意見陳述に、「僕をなめないでいただきたい」と、遺族感情を逆なでした。
 上告審での元少年の「供述の虚偽」も「罪の深さと向き合うことを放棄した」と判断された。
 2審判決後、友人あてに「無期でほぼ決まり。7年そこそこで地上にひょっこり芽を出す」などと手紙を送っていたことも、極刑への流れを後押しした。
 差し戻し控訴審判決は「冷酷、残虐にして非人間的な所業」に対し、「罪刑の均衡、予防の見地から極刑はやむを得ない」との判決を言い渡した。
 永山基準では犯罪の性質、動機、殺害方法の残虐さ、社会的影響、前科などのほか「遺族の被害感情」も極刑の条件となっている。
 今回の判決でも、一度に妻と子を失った遺族の悲観や喪失感、絶望感、処罰感情が強調された。犯行時18歳1カ月は、永山基準以降、最年少の死刑判決である。極刑適用のハードルを引き下げた判決は、来年5月以降に始まる裁判員制度導入による裁判への影響も懸念されている。
 死刑判決は、昨年46人を数え、この20年で最多となっている。重罰化の傾向は、特に性犯罪で顕著となりつつある。
 判決に本村さんは「人の命を貴ぶから死刑がある。被害者も加害者も生まれない社会を実現しなければ(殺された妻子も)犬死にになる」と語った。
 本村さんがいう「死刑判決を出さない犯罪のない安全な社会」こそが「命を貴ぶ社会」である。重く受け止め、実現を目指したい。


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