2008-04-23 晴れ
■[雑記]自滅した日本
22日、広島高裁であった山口県光市母子殺害事件差し戻し控訴審の判決宣告。元少年への極刑に、遺族の本村洋さん(32)は「刑を受け入れてほしい」と言った。
判決終了後、本村洋さんは広島高裁近くのホテルで記者会見に臨んだ。
カメラのフラッシュがたかれるなか、しばらく目を閉じた後、「判決を下してくださった広島高裁には感謝しております。今回の裁判の裁判所の見解は極めてまっとうだと思うし、正しい判決が下されたと思っています」と涙を浮かべながら話し、「亡くなった2人の墓前に早く報告に行きたい」と語った。
何度も判決を評価した。「素晴らしい判決文でした。私が裁判を通じて疑問に思っていたことを明らかにしてくれた」「遺族全員が希望していた判決」
死刑判決が出るまでに9年の歳月がかかった。本村さんは「時間がかかったということはそれだけ判決が重いものであると思う」。死刑という結果について「厳粛な気持ちで判決を受け止めている。遺族にとっては報われる思いがあるが、被告と妻と娘の3人の命が奪われることになった。これは社会にとって不利益なこと」と話した。さらに、「これで終わるのではなく、どうすれば加害者も被害者も出ない平和で安全な社会を作れるのかということを考える契機になれば」と訴えた。
元少年については「胸を張って刑を受け入れて欲しい。これまでの供述を翻したのが一番悔しい。もしうその供述をしたのであれば言ってほしい。(元少年が)心から謝罪できる日が来ることを望みます」ときっぱりとした口調で述べた。
http://www.asahi.com/national/update/0422/TKY200804220183.html
さて、どうしたものか。頭の奥底が痺れる。どうやら日本は自らヤバイ地点に踏み出したのだ、という実感がジワジワと涌いてきた。自分がかつて書いたエントリーが今になって人気エントリーに入るくらいなのだから。
光市母子殺害事件雑感
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20070921/1190360976
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/yamaguchi_hikari_murder/
判決についてはもう云うまでも無いだろう。どうせ、あちこちで言い古されている事でもあろうし。
だが、ちょっとだけ述べておきたい。
先日も書いた、映画「それでもボクはやってない」で、
http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20080304/1204622038
主人公は最後に有罪判決を受ける。その判決理由において「被告は自らの行為を反省していない」というのが入っていた。つまり、「痴漢事件で捕まっておきながら*1、その罪を否認し、(他人に)その罪を転嫁しようとした。裁判で争うのは反省していない証拠だ。」という扱いだったのである。
刑事裁判というのは基本的にそうだ。警察=お国は間違いを犯さない。警察(検察)の出した訴状内容に従わないのは、被告が罪を反省していない証拠。だからこその有罪率99%なのである。
「それでもボクはやってない」が封切時やTV放映時、冤罪以上に問題と認識されていたのは捜査や裁判のあり方だったはずであり、その点が取り上げられ、皆の関心を呼んでいたのだ、と思っていた。
だが、そうでは無かったのだね。みな、ただ痴漢冤罪は自分が被る可能性があるから騒ぎ、警察・検察捜査や裁判については気に留めてなかったのだな。
でなければ、未だに
あれだけの弁護団を組織して、あれだけの不思議陳述を繰り返して死刑。それも主張完全スルーだし、むしろ主張が逆効果になっての死刑。裁判所が「弁護団バーカ」と言っていると曲解できちゃう判決文ですよ、これ。(裁判所「弁護団がDQNなので死刑にします」 タケルンバ卿日記)
http://d.hatena.ne.jp/takerunba/20080423/p1
だとか、
「卑劣な犯罪者にも弁護を受ける資格がある」という話と「弁護士・弁護団はどんな卑劣なやり方で弁護しても構わない」ということを、一緒にして話をしたがる人たちを、僕は牽制しておきたいです。
http://d.hatena.ne.jp/toronei/20080422/F
なんて言葉が吐けるはずもない。(弁護方針は被告人の意志に沿わぬ形で勝手に決める事は出来ない*2。荒唐無稽に見えようとも、それが被告人の言葉なら、その意を汲むしかない。)
警察・検察が恣意的に筋書きを練り、裁判がそれに沿って進められ、それに異を唱えることが“反省していない証拠”で、“真実を語っていない”とするなら、これはもう裁判でも何でもない。単なるリンチだ。
しかも、中傷を弁護団に向けようとは。
【ニューヨーク=長戸雅子】米ノースカロライナ州の大学で、チベットを支持する学生グループと中国政府を支持する学生グループとの衝突を回避するため、仲裁にあたった中国人女子学生が、その後、インターネット上で「売国奴」と糾弾され、言葉の暴力などの深刻な被害を受けていることがわかった。17日付の米紙ニューヨーク・タイムズが1面で伝えた。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/080418/amr0804181742015-n1.htm
この話と何が違うのだろう。弁護する人をも“敵”ととらえるメンタリティーは、ネトウヨの批判の対象になっていたはずだが。
それに、これで外国人犯罪人引き渡しは困難になるだろう。日本は刑事被告人の人権に配慮しない、と公言したも同然なのだから。アメリカ兵の引き渡しに際して、日本の取り調べや裁判の状況が障害になっている事はもっと知られていい。
それからもう一つ。
そんな中で本村さんは、本当によく頑張ったと思います、誤解を恐れずに言えば田舎の高卒の一介のサラリーマンが、日本のトップクラスの法曹界の人間はもちろん、マスコミ人、知識人などとこの九年間渡り合ってきたのは、どれだけ大変な事であり、それらの壁を突破するというのが、どれだけ困難な事であり、決して「愚鈍な大衆を上手く煽って、感情的に流れるようにし向けた」なんて単純な事ではない。それは全く物事の本質を見つける事も、想像力も働かす事も出来ていない。
とにかく僕はこの裁判の結果について、本村さんに「おめでとう」と言うつもりはないし、それは思わないけども、そういう連中に対してだけは、良く戦ってきたなと思いますし、そのことは褒め称えてあげて良いと思う。
(上記 昨日の風はどんなのだっけ?)
犯罪被害者において本村さんのように積極的に発言し、精力的に講演を行っているような人は他にもいる。
原田 正治さん 「弟を殺した彼と、僕」
愛知県から来ました原田と申します。広島を訪れるのは四回目です。皆様とお会いできたことを本当にうれしく思っています。
僕の弟が殺された事件は二十年前のことですから、ご記憶は薄いかと思いますので、まず事件の概要をかいつまんでお話ししたいと思います。(略)
(ひろの会 より引用)
http://ww4.tiki.ne.jp/~enkoji/harada.htm
toronei氏は原田氏を知っているだろうか? 原田氏は犯罪被害者でありながら死刑を望まなかった人なのである。
話をする中で、いろんなことがわかってくる。だけど、ただ単に、「悪いことをしたから、お前は死刑だ」ということでは、ちょっと考える部分があるなと思うんです。
僕もこういう事件があって、いろんな目に遭ったからこそ、死刑という問題について本当に真剣に考えないといけないと思ったわけです。現実に事件が起きて、初めて考える、というのが現状かと思うんです。そこで考えていただく姿勢というのが大切じゃないでしょうか。
死刑制度があるから、死刑にしちゃえ、それで事件は終わりだというのでは、あまりにも短絡的な考えじゃないか。死刑制度のことをよく知らないまま、被害者感情、国民感情という言葉を安易に使っていることもそうです。事件が起きた、死刑にしちゃえばそれですむんだ、という考え方では、本当の解決にはならない。
(上記より引用)
本村さんがマスコミに取り上げられてきたのは、彼自身の力もあろうが、やはり、「厳罰化」を望む世間、それを都合良く利用しようとする側の配慮が働いたためだろう。本村さん自身も原田さんと同じ意の事を述べている。それでも死刑を望む本村氏は賞賛されて取り上げられ、原田氏は取り上げられることもない。“高く吊す”事が“当然”と考え、被告や弁護団の言葉が“荒唐無稽”と斬って捨てる輩は、この事件で「何を考えた」つもりなのか。
既に世界の先進国では死刑制度自体廃止した国が大勢を占め、死刑制度が残るのは人権意識が薄い国だ。アメリカは州によって異なるが、実施されている州は少数である。
日本は死刑制度を廃止した国に比べても、凶悪事件が多いわけでもない。むしろ少ないくらいだ。さらに云えば厳罰化が犯罪抑制に効果があるかといえば、それも否定されている。
茨城・土浦の8人殺傷:「複数殺せば死刑に」 金川容疑者「犠牲増える」予告
茨城県土浦市のJR荒川沖駅周辺の8人殺傷事件で、無職の三浦芳一さん(72)殺害容疑で逮捕された同市中村東3、無職、金川(かながわ)真大(まさひろ)容疑者(24)が「(死にたかったが)自殺はしたくなかった。複数の人を殺せば死刑になると思った」と供述していることが分かった。
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2008/03/28/20080328dde041040088000c.html
鹿児島県姶良(あいら)町でタクシー運転手が首を切られて殺害された事件で、殺人の疑いで緊急逮捕された陸上自衛隊練馬駐屯地(東京)の1等陸士の少年(19)が県警の調べに対し、「人を殺して死刑になりたかった。タクシー運転手をねらったわけではない」と供述していることが分かった。
http://www.asahi.com/national/update/0423/SEB200804220016.html
罪を償わせる事を選択せず、社会から排除を望むというのでは、まっとうな国とは言い難い。
阿部謹也の中世ヨーロッパに関する著作を読んだ時、中世ヨーロッパ庶民が刑執行を娯楽としている事を知ってイヤな気分になったことがある。中世ヨーロッパだけではなく日本でもそうだったようだが、罪人であるがゆえ、せいぜいと楽しみに興じられたようだ。彼ら自身、昏い楽しみという自覚は無かっただろう。正義の側に荷担しただけなのだから。しかし、結果としてそれは、弱者の側に不満を転嫁し、権力に対する不満から目を逸らすのに役立ったのである。現在の死刑制度がいやらしいのは、刑を望む者達が自ら刑の現場に立ち会わない分、死に追いやる事の痛みも負わず、さらに取り澄ました顔が出来る事だろう。痛みも何も他人事なのである。
最後に。
今まで本村氏自身に対しては、彼がどう発言しようと彼の当然の権利だと考えてきた。無辜のつもりの連中が便乗しなければ良いと考えていた。しかし、以下の言葉に関しては、本村氏を批判する。
(略)
元少年については「反省にまだ真剣さが足りない」と話した。そして「死刑が内省を深める契機になると思っている。死刑以外で生き永らえるより、胸を張って死刑を受け入れ、社会に人を殺(あや)めることの愚かさを知らせるのが彼の役割」と述べた。
(略)
http://www.asahi.com/national/update/0420/OSK200804190127.html
反省が足りない事が死刑の理由の一つであるのに、死刑に際しても反省を求める、というより反省した人間を死刑にする、のは許されるべきだろうか。反省したのであれば、「更正の見込みが無い」とは云えないはずだ。反省しない、出来ない、他に償いようが無い、がゆえに、死刑が存在するはずだ。
おそらく被告の上告は棄却になり、そのうちに刑は執行され、執行後に「そんなヤツもいたっけ」と思い起こす。だが、世界の趨勢に背を向け、死刑を連発する日本。それは民主主義国家の断末魔の姿である。
追記:
綿井健陽のチクチクPRESS
【本文さしかえ】20日(日)放送番組と掲載誌のお知らせ より
あまりこういった言い方はしたくないが、だが私もこれまで一年間この事件の裁判の取材をしてきた者として、何らかのリスクは背負わなければならない。
もし被害者遺族の男性の言うように、弁護側の主張が「荒唐無稽」であると裁判所が同じように認定した場合、なおかつ検察側の最終弁論で述べられている「当審における審理の結果によっても、被告人につき死刑を回避するに足りる特に酌量すべき事情は、これを一切見出すことができない」と裁判所が同じように判断した場合は、私はこれまでの取材などで書いたこと、発表してきたことなどの責任を取って、すべてのジャーナリスト活動から身を引くことにした。
僕もそれぐらいのことを背負う覚悟はある。
http://watai.blog.so-net.ne.jp/archive/20080420
綿井氏には是非、前言撤回して欲しい。このような裁判結果に終わった事に対する氏の責任は、ジャーナリスト活動からの引退ではなく、別の形でとって欲しいと思う。
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