戦後処理をめぐる国家プロジェクトの裏で、不正がまかり通っていたことになる。東京地検特捜部が大手コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)の元社長ら4人を商法の特別背任容疑で逮捕した事件だ。
旧日本軍が終戦時、中国に遺棄してきた大量の毒ガス兵器を日本政府が回収し、処理する事業が事件の舞台になった。1997年に発効した化学兵器禁止条約によって、早期処理が日本の責務となり、99~06年度で470億円もの国費がつぎ込まれてきた。
その事業を国から委託されていたPCIのグループ会社が一部を外注する際、グループの別の会社を介在させる形にして1億2000万円を抜き取ったというのが元社長らの逮捕容疑である。中国で遺棄兵器による死傷事故が後を絶たず、一刻も早い処理が求められている中で、事業費の一部を流用していたとすれば言語道断だ。
グループは人件費などを国に水増し請求していた疑いも浮かんでいる。かすめ取られたとみられる多額の税金はどこに消えたのか。その使途も含めて、特捜部には事件の全容を徹底解明してもらいたい。
事業は当初、PCIと他社による共同企業体などが受注していたが、04年に事業を担当する内閣府とPCIとの協議で、グループ100%出資の管理会社を設立し、そこに事業を随意契約で一括委託する枠組みが出来上がった。
内閣府は処理事業の特殊性から、特別なノウハウを有するグループへの委託が必要だったと強調するが、随意契約では契約額が適正かどうかわかりにくい面もある。こうした不透明さが不正の温床になったのではないか。昨年秋に問題が発覚し、内閣府は今年度から一般競争入札を導入することにしたが、遅きに失したと言わざるを得ない。
さらに問題なのは、PCIが国際協力機構(JICA)から委託を受けた政府開発援助(ODA)事業でも度々、不正経理を指摘されてきたことだ。会計検査院によると、偽造した契約書などをJICAに提出して不正請求する手口で、使途不明金は1億円余に上った。04年以降、PCIはJICAや外務省から指名停止処分を受けている。
にもかかわらず、内閣府はグループへの委託を継続しただけでなく、十分なチェックも怠っていた。もっと早い段階から調査に乗り出し、監視を強めていれば不正は未然に防げたのではないか。内閣府は結果的に不正を許した背景をしっかり検証し、再発防止の教訓とすべきだ。
処理事業は今年度予算でも154億円を計上し、当初から新たな巨額の利権を生むのではないかと政界などでささやかれてきた。事業の透明度を高めることが不可欠だ。
毎日新聞 2008年4月24日 0時24分