中国に残る旧日本軍の化学兵器の処理は巨大ビジネスだ。その闇に東京地検が切り込んだ。不正を見抜けぬ国のチェック機能も問題だ。今後も莫大(ばくだい)な税金を費やすだけに、徹底した透明性を求める。
遺棄化学兵器の処理事業は、内閣府が発注している。事業費から一億二千万円を不正流用した容疑で逮捕されたのは、大手コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)の「元社長」と「前社長」ら最高幹部たちだ。
中国では遺棄された毒ガス兵器に触れ、死傷する事故が続いた。その被害を受けて、化学兵器禁止条約や日中間の覚書で、日本に廃棄処理が義務づけられたのである。経緯を踏まえれば、まさに戦後処理をも食いものにした許されぬ犯罪といえる。
事業費を水増しして請求していた疑いも出ている。苦い歴史にさらに泥を塗る不正を徹底的に暴き出してほしい。
同社は国際協力機構(JICA)や政府開発援助(ODA)の事業を数多く受注している。看過できないのは、不祥事が相次ぐ業者であることだ。中米でのODAでは過大請求が発覚した。十数カ国の事業で、経費水増しや架空契約などの疑いが、会計検査院の調査で分かった。外務省などから二〇〇四年に長期の指名停止の措置も受けたほどだ。
二〇〇〇年からの遺棄兵器処理をも、PCIグループは一貫して請け負い、〇四年度からは随意契約で独占し、計二百三十億円も受注している。これを指名停止期に全面委託していた、内閣府のずさんさも指弾されるべきだ。
今回の事件に関し、内閣府は書面の再チェックや関係者聴取をしたが、「不正が確認できなかった」という。これでは技術や価格などが適正なのか、管理・監督できないのと同義だ。一般競争入札に変えたが、対応が遅すぎる。
遺棄兵器は吉林省だけで、三、四十万発と推定される。本年度分も含め、約八百億円もの税金がつぎ込まれたが、発掘・回収済みはいまだ四万四千発にすぎない。いったい過去の“清算”にいくらかかるかも不明だ。
毒ガス処理という極めて特殊な世界だけに、「利権」が巣くいやすい。中国に埋もれた兵器がどれだけあるかも、全体像はつかめきれない。残存数が増えれば、ビジネス規模も拡大する。業者の悪徳に目を光らせたい。
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