野村証券元社員ら三人がインサイダー取引を繰り返した証券取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。不祥事を見逃した経営陣の責任は重い。金融庁は行政処分を含め厳しく対応すべきだ。
会社は「個人の犯罪」と強調しているが、本当にそうか、と問わざるをえない。というのは、野村は、これまで何度も不祥事を繰り返してきたからだ。
一九九一年には、大口顧客に損失補てんし、国税当局から追徴課税され、その後も総会屋への利益供与、旧大蔵省OBへの過剰接待と事件が続いた。五年前にも、今回と同じようなインサイダー取引で元課長が在宅起訴されている。
今回の事件は、企業情報部という会社の合併・買収(M&A)にかかわる部門の社員による行為だ。証券最大手である野村の企業情報部には、各社の営業戦略から経理情報に至るまで企業秘密がぎっしり集まっている。
そんなトップシークレットを抱えた中枢部門の社員が自らインサイダーに手を染めていたとあっては、関係企業からみれば「裏切り」としか言いようがないだろう。まさに、金融市場全体に対する背信行為である。
不祥事を起こすたびに、野村は業務改善を誓ったはずだが、またも不正取引で逮捕されたとなると、これは会社の体質に大きな問題があると考えざるをえない。
これまで出直しを誓ったのは、言葉だけだったのか。最大手として本来、業界の模範になるべき立場でありながら、悪質な不正行為を繰り返したからには、経営陣の責任が問われて当然だ。
管理体制のどこに問題があったのか。社員のモラル維持に不備はなかったのか。不正を事前に防止する手だてはなかったのか。「知らなかった」では済まない。経営陣は企業情報部の改廃も含めて徹底的に業務を見直し、再発防止に努める必要がある。
事件を起こしたのは中国人社員だったが、国籍には関係ない。外国人も日本人も区別なく採用するのは自然な流れである。国籍を問わず、法令順守意識を社員に徹底していくことが重要だ。
直接の容疑になった富士通デバイスの株式公開買い付け(TOB)をめぐる取引だけではなく、ほかにも不正な取引がある可能性がある。金融庁は業務改善命令など行政処分も視野に入れて、厳正に対処しなければならない。
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