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【主張】遺棄化学兵器 検証なき巨費投入は問題
中国で進められている遺棄化学兵器処理事業をめぐる不正支出事件で、国から事業を請け負っていたコンサルタント会社の元会長ら4人が特別背任容疑で東京地検特捜部に逮捕された。
グループ間の架空取引を通じ、会社に1億2000万円の損害を与えたとする容疑だ。特捜部はさらに、技術者の人件費を水増しして国から不正受給していた疑いもあるとみて、詐欺容疑でも調べを進める方針だという。
不正の背景は、コンサルタント会社が全額出資して設立した遺棄化学兵器処理機構が、国からの受注を独占してきたことにある。内閣府に化学兵器処理のノウハウがなく、同機構の要求のまま予算を計上したことも重なり、9年間で683億円の巨額の国費が投入された。不正の最大の被害者は、納税者たる国民である。特捜部はこのことを踏まえ、特に詐欺容疑の立件に力を入れてほしい。
この事件が発覚したのは昨年10月、特捜部が特別背任容疑で同機構など関係先を家宅捜索してからだ。その後、政府は特定の企業が随意契約で独占的に事業を行ってきた従来の方式を改め、今年度から一般競争入札を導入することを決めた。不正の温床をなくすための当然の措置である。
しかし、この事件が捜査中であるにもかかわらず、今年度も、遺棄化学兵器処理事業に154億6400万円もの巨額の予算が投じられたのは、理解に苦しむ。
もともと、この事業は中国側の言い分をほとんど受け入れる形で始められたものだ。終戦時、旧日本軍は化学兵器を含むすべての武器を中国軍や旧ソ連軍に引き渡しており、「遺棄」には当たらないとの見方もあったが、引き渡したことを明確に証明する書類がないとされ、中国にのみ有利な処理策が進められてきた。
しかし、最近、「遺棄」ではないとする証拠が防衛省防衛研究所などで次々と見つかっている。昨年も、中国大陸で旧日本軍が化学兵器を中国側に引き渡したことをはっきり示す文書が、防衛省の関係団体が外務省の依頼で行った調査資料の中に含まれていることが、ジャーナリストの取材で明らかになった。外務省はこれを公表していない。
政府は予算を積み増す前に、こうした事実関係やこれまでに支出した683億円の使途などをきちんと検証すべきである。