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【主張】日本タンカー被弾 「不法」に無力な不備正せ
公海上で日本の船舶などを守る法的枠組みに不備があると言わざるを得ない。問題を浮き彫りにしたのは、日本郵船の大型タンカー「高山」が中東イエメン沖で不審船から銃撃を受け、被弾した事件だ。
この海域では、テロリストの移動などを阻止するために米英など11カ国の多国籍海軍が活動している。日本は今年1月、新テロ対策特別措置法が衆院で再可決されたのを受け、海上自衛隊の補給艦と護衛艦を派遣、2月から多国籍海軍に給油支援を行っている。
問題は、今回のように日本船が海賊などに襲われた場合、現場周辺に海自艦艇がいたとしても不法行為に適切に対処できないことだ。海自は国際法的には海軍であり、海賊の不法行為を取り締まり、排除する権限をもっている。しかし、国内法的にはそうした任務を与えられていない。
防衛相が海上警備行動を発令した場合に限り、海自は海上保安庁の巡視船と同じ警察行動を取れるが、警察官職務執行法を準用しての武器使用しか行えない。普通の国の海軍なら行える脅威の排除はできない仕組みになっている。
なぜこうなるのか。どこの国でも自国船舶への攻撃は自衛権の適用となるが、日本は自衛権の発動について、急迫不正の侵害があるなどを要件にしている。船舶への攻撃が急迫不正の侵害かどうかを判断し、首相が防衛出動を発令するという手続きを取る。自衛権適用を厳格に規定したため、自衛隊が緊急事態に実効的に対応することは難しいのが現実なのだ。
国際社会では「平時の自衛権」として対処できる権限を軍隊に付与しているが、日本でもこうした問題をきちんと見詰め、法制の不備を正すべきだろう。
問題はまだある。新テロ対策特別措置法は海自の活動を給油支援に限っている。国連安保理は海賊被害の続発を受け、加盟各国にパトロールなどの海賊対策を求める決議の採択を目指しているが、現状では海自はパトロールすらかなわない。
海上交通路(シーレーン)を守るため、日本も国際社会とともに応分のコストとリスクを担わなければなるまい。
国際平和協力のための恒久法制定は福田康夫首相が先の施政方針演説でも約束したことだ。国民の安全・安心を守ることでもあり、政権の大きなテーマだ。