福田康夫首相は23日、消費者行政推進会議で消費者庁の創設を表明した。秋の臨時国会に関連法案を提出し2009年度の発足を目指すという。食の安全に関心が高まり、商品やサービスをめぐる消費者被害が相次ぐ中で、消費者行政の強化は時代の要請だ。大切なのは器より中身だ。つくるからには消費者の期待にこたえる組織でなければならない。
中国製冷凍ギョーザ事件では千葉県で1件目の被害が発生してから厚生労働省が事実を発表するまで1カ月もかかった。ガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒は20年前から起きていたのに経済産業省は有効な手を打たなかった。消費者庁ができればこうした事態は防げるのか。
推進会議で議論されている新組織は、食品や製品の安全、商品や金融の取引、表示など消費者問題全般を扱う。消費者の相談から政策の企画・立案、勧告までの権限を持つ。消費者行政に関する主要な法律を執行する。情報の収集と発信を一つにまとめ、ギョーザ事件のような緊急時には各省庁を束ねる司令塔の役割を果たすことになる。
だが、具体的なイメージはまだ見えてこない。首相は消費者に身近な法律は既存の省庁から消費者庁に移すと言明した。それなのに推進会議による事情聴取では、経産、農水、厚労、国土交通の各省は「専門性が必要」などと軒並み反対した。公正な消費者行政を進めるには、消費生活用製品安全法や食品衛生法など消費者にも関係する法律は、産業育成の官庁から切り離すことが欠かせない。各省庁が既得権益を守るために抵抗するなら、首相が指導力を発揮することも必要だ。
悪質業者の摘発には強力な調査権限が欠かせない。警察庁や公正取引委員会との連携も大切だ。悪質業者が減らないのは不法に得た利益を吐き出させる仕組みが弱いからでもある。その仕組みも強化すべきだ。
消費者が気軽に相談できる窓口や、情報を専門家の目で分析し迅速な対応や政策立案につなげる仕組みも重要だ。現実には地方の消費者相談窓口は予算削減で疲弊している。担当者の教育を含め態勢の充実が欠かせない。ただし全体として行政の肥大を招かないことはもちろんだ。
行政のあり方を産業振興優先から消費者重視へ転換することは、先進国共通の大きな流れでもある。せっかくの組織も中身が空っぽでは意味がない。推進会議は5月中旬にも最終報告書案をまとめる予定だ。「消費者が主役」の行政を確立するには明確な青写真を示す必要がある。