米大統領選の民主党候補選びは大票田ペンシルベニア州の予備選でも決着がつかなかった。ヒラリー・クリントン上院議員は同州で勝ったとはいえ、バラク・オバマ上院議員が優勢な状況に変わりはない。オバマ氏は獲得代議員数でクリントン氏を引き離している上、選挙資金でも3月にはクリントン氏の2倍の4200万ドルを集め、資金は豊富だ。それでも逆転勝利に賭けるクリントン氏は、選挙戦を続けると明言した。
密室の取引を排し、公開の透明な論戦と投票を繰り返し、有権者を説得して多数を制した者こそ強い勝者であり、正当性を持つ。そういう米国の民主主義のルールに基づく争いだ。どちらかの候補者が敗北を受け入れるまで、終わらない。次期大統領の政策に左右されかねない世界の人々は、驚くほど時間がかかる米国独特の複雑な選挙制度が優れた指導者を見いだすことを期待するばかりだ。
クリントン氏は「長い負け戦」を戦っているだけなのかもしれない。代議員の8割がすでに決まり、これから劣勢をはねかえし、オバマ氏を破る可能性は薄い。民主党内には、候補者選出が長引くと、共和党で一足早く指名を確実にしたジョン・マケイン上院議員が、漁夫の利を得ると恐れる声もある。クリントン氏に対する撤退圧力は今後も強まるだろう。
だがクリントン氏は勝利演説で「米国人はあきらめない。米国人にはあきらめない大統領がふさわしい」と訴えた。この楽観主義と自信に魅力を感じる一方、反発する民主党支持者もいるだろう。また、オバマ氏は「政治的な利益を得るため、分断につけこむこともできる。だが、私たちが始めた運動を発展させることもできるのだ」と述べた。表看板である統合と希望の夢を語り続ければ支持を固められると見込んでいるのだろう。だが具体策に欠けるという批判も出始めた。
2人の支持層の違いはますますくっきりしてきた。同州の出口調査では、白人女性の3分の2、カトリックの7割、60歳以上の6割がクリントン氏に投票した。黒人の9割、29歳以下の6割はオバマ氏だった。候補者の資質として「変化をもたらす」を重視する人の7割はオバマ氏に、「経験」派の9割以上がクリントン氏を支持した。
有権者を分類した上で、対象グループにあわせた宣伝を打ち出し、相手の弱点を批判する。候補者を新商品のように売り込む選挙戦も米国ならではだ。長期化すれば確かに党内の亀裂は広がる。だが、メディアの報道は民主党に集中し、共和党は取り残されたともいえる。
黒人と女性という米社会で差別されてきた少数派が大統領をめざして競う。長い大統領選挙は新しい歴史を作る活力につながるかもしれない。
毎日新聞 2008年4月24日 東京朝刊