現在位置:asahi.com>社説 社説2008年04月24日(木曜日)付 道路暫定税率―再可決に説得力はあるか道路特定財源を巡る与野党の攻防が山場を迎える。政府与党はガソリン税などの暫定税率を復活させるため、政府提出の法案を30日に衆院の3分の2で再可決する方針を決めた。 福田首相は「このままでは財源に穴があく」「09年度からは一般財源化し、医療や子育て支援などにも財源を回す」と理解を訴えている。 だが、これで納得する人がはたしてどれだけいるだろうか。 暫定税率はすでに失効し、1カ月足らずとはいえガソリンは値下がりしている。法的には、再可決は税率の「維持」ではなく、新たな「増税」を意味する。増税するのなら、それ相応に十分な説得力が不可欠だ。 朝日新聞社の世論調査によると、63%の人が暫定税率の再可決に反対だった。また、58%は道路特定財源の一般財源化に賛成している。 ミュージカルやマッサージチェアから職員旅行の費用まで……。国会審議などを通じて、道路財源のとんでもない流用が明らかになった。不要不急の道路計画もたくさんある。 このまま税率を復活させては、税金のムダがどこまでも続いてしまう。道路財源は廃止して、福祉や教育など、他の差し迫った費用に税収を回すべきだ。その第一歩が一般財源化なのだ。国民の多くはそう考えている。 そこで福田首相は09年度からの一般財源化を打ち出したわけだが、それが額面どおり実施されると受け止められるだろうか。道路族の巻き返しに後退していくのではなかろうか。 国民の理解を得るため首相がすべきことは明白だ。一般財源化を09年度からとせず、できる策はすべてただちに実施することに尽きる。 具体的に言おう。 ガソリンなどの税収を道路特定財源にすると定めた特例法案が、5月12日には再可決できるようになる。これは特定財源を10年間延長する内容なので09年度から一般財源化する方針とつじつまが合わない。08年度限りに手直しすることが最低限必要だ。 いや、思い切って廃案にしてしまえば、もっと説得力がでる。 次に、08年度の予算をこれから組み替えて道路への支出を大幅に減額補正し、他の予算へ回す。つまり、一般財源化を09年度に先送りせず、できる範囲でいまから実施するわけだ。 これを一般財源として自治体が自由に使うには法律などの手当てが必要だが、不可能なことではない。 こうした方針を福田首相は表明し、そのための作業にすぐ入る。そこまでしなければ、一般財源化の約束もどうせ空手形と受け取られるだろう。 いまのままでは、再可決という強引な方法で暫定税率を復活させることに、説得力があまりに乏しい。 淀川のダム―「待った」に従う時だ淀川水系で国土交通省がつくろうとしている四つのダムに、ほかならぬ国交省の諮問機関から「待った」がかかった。 住民や学識経験者らで構成される流域委員会がダムの費用対効果を考えて、「ダム建設より堤防の補強をすべきだ」との意見書をまとめたのだ。 国交省は「ダムは必要」と反論するが、足元の諮問機関から「脱ダム」を求められたのは極めて異例のことである。流域委の意見は納得できる。ただちに建設を中止し、河川整備計画を練り直すべきだ。 流域委が「待った」をかけた根拠のひとつは、ダムの建設費が高いことだ。この建設費は国交省だけでなく、地元の自治体も負担する。改めて建設費を算出するよう国交省に求めたところ、4ダムで合計約3800億円かかることがわかった。当初の計画より820億円もふくらんでいた。 1200万の流域住民の安全が確実に守れるのなら、それでも計画を進めるという選択肢もあるだろう。 だが、流域委がそれぞれのダムを検証すると、治水の効果はあまり期待できなかった。たとえば、滋賀県に計画中の大戸川ダムは、200年に1度の大洪水が起きた時に、下流の大阪市で水位を最大19センチ下げるだけだった。 ほかのダムの建設についても、国交省は委員を納得させるだけの十分な説明ができなかった。 淀川水系には、水があふれれば壊れかねない堤防が、延べ約100キロもある。そうした危険な堤防を造りかえることこそ急がねばならない。住民の避難態勢を整え、川があふれることを前提とした土地利用計画を立てることも大切だ。流域委はそう指摘した。 住民の被害を抑えるうえで、流域委の指摘は的を射ているものばかりだ。 ところが、あきれたことに、国交省は意見書に反論し、「堤防は洪水時に確実な効果が期待できない。ダムなら下流の全域の水位低下に貢献する」などと主張している。 国交省がダム建設にこだわるのは、いったん始めた事業を途中でやめたくないというメンツに加え、これまでに多額の金をつぎ込んできたという背景があるだろう。だが、ここで中止しないと、さらに多額の建設費がかかる。国家財政が行きづまっている時に、そのことをよく考えてもらいたい。 地元の自治体は声を上げるべきだ。これらのダム建設で、たとえば大阪府の場合、負担は400億円を超えるという試算もある。今年度1100億円の歳出削減を図ろうとする大阪府に、そんな余裕があるのか。 今回の意見書は、その川の流域に暮らす人たちが考え抜いて出した結論である。それを遠く離れた霞が関でくつがえしてはいけない。 PR情報 |
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