◎全国学力テスト 結果公表はもっと増えていい
昨年に続いて行われた文部科学省の全国学力テストで、市町村別の結果を公表する自治
体が固定化する傾向が見え始めたのは残念なことである。石川県では昨年公表した金沢、白山市を含む五市町、富山県では昨年に続き富山市と南砺市が検討しているものの、他の自治体は公表しない方針だという。
文科省の実施要領は、都道府県が市町村別データ、市町村が学校別データを公表しない
よう求める一方で、市町村が保護者や地域住民への説明責任を果たすため、全体の結果を公表することは、それぞれの判断に委ねている。
公表しない理由として「競争をあおる」「序列化を招く」といった声が相変わらず多い
が、それは画一的な受け止め方のようにも思われる。正答率が県平均より低ければ、保護者や地域に動揺を与えることを心配する自治体もあるようだが、仮に下回ったとしても、県平均に追いつき、追い越すための改善策をしっかり示せば奮起を促すこともできる。二回目のテストであれば、一回目との比較を含めて検証できる視点はいくつもあるはずだ。結果の公表はもっと積極的に検討されてよいだろう。
石川県では学力テストの結果をもとに各小中学校が学力向上プランを作成し、富山県で
も「富山型学力向上プログラム」を策定して各学校の一層の底上げを目指している。昨年は富山県が全国トップクラス、石川県も総じて全国平均を上回ったが、それに満足せず、結果を現場の授業改善に生かそうとする積極性は評価できる。
学力テストの負の側面ばかり取り上げて廃止を唱える声もあるが、全体としてみれば学
力向上に取り組む大きな動機付けになったことは確かである。市町村単位の結果公表もそんな視点から考えることができよう。
県全体の取り組みは活発化したように見えても、実際には市町村教委や学校間でテスト
結果の活用には温度差も生じている。知識活用型の学力を伸ばす独自の対策を始めた教委もあれば、県教委に従うだけの教委もある。テスト結果よりむしろ、そうした地域差が広がることの方が気がかりである。
◎PCI元社長逮捕 巨額国費の流れにメスを
中国での遺棄化学兵器処理事業に絡み、大手建設コンサルタント会社パシフィックコン
サルタンツインターナショナル(PCI、東京)の元社長ら四人が不必要な事業委託費を関連会社向けに支出させ、PCIに損害を与えたとして東京地検特捜部に特別背任容疑で逮捕された。
遺棄化学兵器とは、旧日本軍が一九四五(昭和二十)年の終戦時に残した「負の遺産」
ともいわれる化学兵器のことであり、一九九七年に発効した「化学兵器禁止条約」を受けて行われた九九年の日中両国の合意に基づき、処理費の負担は日本として二〇〇〇年から事業が始まったものだ。
が、中国の言いなりではないかとの批判もあり、そのために昨年十一月、民主党の参院
議員の谷博之氏がこの事業そのものや、国費の支出などについて政府に質問している。このときの政府の答弁書によると、〇六年度までの予算執行総額は内閣府が約四百七十一億円、外務省が約三十九億円で、合計約五百十億円となっている。
元社長らの容疑はPCIに損害を与えたというもので、その額も約一億二千万円とされ
ているが、処理事業が込み入った形で進められたことからいえば、政府が巨額の資金を出した処理事業を舞台にした、闇の存在を感じさせる不祥事だ。巨額の国費の流れにメスを入れてほしい。
関係者によると、PCIなどの共同事業体(JV)が調査業務などを随意契約で受注し
、事業の本格化に伴い、PCIの持ち株会社が〇四年三月、全額出資して「遺棄化学兵器処理機構」を設立した。
その後は同機構が遺棄化学兵器の発掘・回収など内閣府の全業務を独占受注し、一部を
JVに委託した。
さらにJVのうちPCIは持ち株会社の子会社を介在させ、別の設計会社など四社に事
業委託をする仕組みを考案するなど、金の流れが非常に複雑だ。架空の取引もあるといわれるため、全体の金の流れに即して不正を解明していくのは大変だろうが、この事業をめぐる疑惑を払うためにも徹底的な究明が必要だ。