「熱狂の日」が近づき、金沢駅に巨大なベートーベンの顔が登場した。よく知られた顔で、生前の写真でもあったのかと錯覚しそうになる 一七七〇年に生まれ一八二七年に亡くなった、日本でいえば江戸時代中後期の人である。デスマスクや肖像画は有名だが顔写真はない。二百四十年近く前に生まれ、これほど顔が売れた男も少ないと妙な感慨を覚える 作曲家と同時に名ピアニストでもあった。無論レコードはない。が、驚くことにベートーベン没のわずか三年後に生まれベートーベンの孫弟子にあたるピアニストが二十世紀まで長生きし、その演奏が録音されている 二百年前は遠いようで意外と近い過去である。芸術は長く生命は短いとの言葉もある。五十六歳まで生きたベートーベン自身は「長いのは生命だけで、芸術は短い」(ベートーベン音楽ノート・小松雄一郎訳)と思ったらしい 一生が長いのも短かいのも、残すもの次第だろう。優れた音楽は人々の心の中で生き続け、時空を超えて後世と出会う。それもこの北陸で。これぞ「運命」である。にわか仕立てのクラシックファンはそう思う。
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