文士にも動物好きは多いが、大仏次郎の猫好きは有名だった。家には常に十匹以上の猫がいて、ここならと見込んで猫を庭に捨てにくるご仁まで現れたという。
自身の臨終風景に思いをはせ「此の気どり屋の動物の静かな姿や美しい動作を思い浮べていることが、どんなに心に楽しくて、臨終の不幸な魂を安めることか」(随筆「猫のいる日々」)とまで書いている。
ペットブームと言われて久しい。ペットフード工業会の調べでは、全国で飼育されている犬、猫は二千五百万匹を超える。本紙「くらし面」ペットコーナーの投稿写真が人気なのもうなずける。
過熱するペットブームは、少子化や核家族化に伴う高齢世帯の増加とも何やら関係がありそうだ。現代人にとって、ペットは家族の一員なのだろう。
精神科医の香山リカさんは、ブームの背景にあるのは「『心のゆとり』ではなくてむしろ『心のすきま』なのではないか」(幻冬舎新書「イヌネコにしか心を開けない人たち」)と指摘。心のすきまをもたらす要因の一つに「言葉によるストレス」をあげる。
人間社会で傷ついた心の穴を、物言わぬ犬や猫で満たそうとしているのだろうか。家族でも人をあやめる悲惨な事件が相次ぐ昨今。ペットに寄せる情愛とは裏腹に、人間への愛情の希薄さが気にかかる。