差し戻し控訴審の検察側最終弁論要旨は次の通り。
【第1 被告の死刑を回避する事情は認められない】
被告は上告審、当審に至ってそれまで認めていた事実関係を争い、反省するどころか事実を捏造(ねつぞう)・歪曲(わいきょく)し、被害者を冒とくしてまで死刑を免れようとする態度に出ている。遺族に対し、更なる苦痛と憤りを与える態度に終始しており、被告に対しては死刑をもって臨むほかはない。
【第2 本件犯罪事実は揺るぎなく認定できる】
客観的事実からだけでも被告の各犯罪事実は認定でき、被告の自白はこれを合理的に裏付け、具体化している。被告の当公判廷における弁解は、通常の合理的理解を超えるばかりか、明らかな虚構がある。
◆被害者に対する殺意
成人女性の被害者の必死の抵抗を受けながら、5分間かそれ以上、頸部(けいぶ)を素手で圧迫し、窒息死させているのであり、強い殺意に基づくことは明白である。第1審判決後に友人に出した手紙の中で「オレは最低な人間さ!平気で人を殺した」と書いている。弁護人申請の法医学鑑定は「右手の逆手により被害者の頸部を圧迫して死亡させた」とするが、人の手の作用に対する認識を欠いたもので、死体の所見とも矛盾する。
◆被害児に対する殺意
被害児がひもで頸部を絞められて殺害されたのは死体所見から明らか。被告は被害児を何とか泣きやませようと考えているうちに、いつのまにか首にひもを巻かれて被害児が死亡していたと弁解する。この弁解自体が不合理であることは多言を要しない。
◆強姦の犯意
被告が被害者を姦淫(かんいん)した事実は争う余地がなく、被害者を殺害した行為が強姦の手段として行われたか否かが問題となる。被告の行為自体から強い性的欲望に基づいて被害者を姦淫したことが認められる。被告には被害者と被害児を殺害する動機となるような恨みはなく、被害者の殺害が強姦の目的によるものであることが認められる。
被告は被害者を姦淫したのは復活の儀式であり、欲望を満たすという意識はないと弁解する。極めて非科学的であり、主張の根拠として小説「魔界転生」をあげるが、荒唐無稽(こうとうむけい)なこじつけであり、被害者の死を軽んじている。弁護人は被告の精神発達に遅れがあり、非科学的な死者復活を信じていたと主張するが、当公判廷での供述態度からすれば、精神発達の遅れをうかがわせるものはない。
【第3 被告の当公判廷における弁解は虚構である】
犯行状況に関する被告の供述は弁護人が依頼した鑑定結果や被告・弁護人が知り得た犯行現場の状況に意図的に合わせたもので、事実を捏造、歪曲しようとするものである。被告は死刑を免れるためことさら虚偽の供述をしている。
弁護人のいわゆる「母胎回帰ストーリー」は刑事責任を判断する資料にならない。母胎回帰ストーリーの根拠は弁護人が請求した臨床心理鑑定人及び精神鑑定人作成の各鑑定書である。鑑定書は本件犯行を被告の成育歴からのみ説明しようとするものであり、その姿勢自体が人の行動分析としては偏ったものである。また、捜査段階の供述を無視し、鑑定時の被告の供述にのみ依拠している。被告は成育歴に関しても、その場その場で供述を変えており、到底信用できないにもかかわらず、面接時の供述にのみ依拠しているのは客観性を欠いている。
被告は最高裁判決を受け、死刑に直面するという状況下で鑑定人の面接を受けた。最高裁あての上申書に記載された被告の供述は、それなりに合理的なものであるのに対し、当公判廷における供述は、いわゆる母胎回帰ストーリーという特殊な解釈による以外、到底理解し難いものとなっている。被告の供述が臨床心理鑑定書に触発され、これに乗じているものであることは明らかだ。
【第4 遺族の被害感情】
本件は発生から8年を経過し、遺族は被告に極刑を求め、被告の口から真実が語られることを求めていた。しかし、遺族は公判廷で、被告が通常人の目から見て真摯な供述とは到底受け取れない不自然不合理な弁解を繰り返すのを聞かされてきたもので、その苦しみや憤りがいかほどのものかは想像の及ぶところではない。
【第5 総括】
被告に無期懲役刑を言い渡した第1審判決の量刑は不当で、これを破棄しなければ著しく正義に反するものであるから、これを破棄した上、被告に死刑を言い渡すべきである。
2008年4月15日