差し戻し控訴審の弁護側最終弁論要旨は次の通り。
【はじめに】
被告は事件当時、18歳と30日の少年であり、少年事件として審理することが求められている。ところが差し戻し控訴審に至るまで、少年事件の特別な措置に基づく審理は一切行われなかった。本件犯罪事実が初めて実質的に審理の対象となり、被告にとって、差し戻し控訴審は実質的に第1審である。
【事実誤認】
◆殺害行為の不存在
1審判決によれば、被告は被害者に馬乗りになって首を両手で絞めて殺害したとされるが、遺体の状況や法医学の検討によれば、被害者を背後からスリーパーホールドで抱え込み、その後、あおむけの被害者に覆いかぶさって右手の逆手で首を押さえた結論が導かれる。
また、被告が頭上の高さから被害児を床にたたきつけ、首をひもで二重に巻き、力いっぱい絞めたとするが、法医学から検討すると、頭部は比較的軽度の打撲で、窒息死であるにしても、ひもで結んだ後のむくみにより、呼吸不全か脈流不全で死亡した。
◆強姦の計画性と強姦行為の不存在
被害者方のアパートは被告方から近い場所にある。被告がアパートを戸別訪問したのは、時間をもてあまし、人恋しさを感じたからで計画的ではない。
被告の犯行当時の心理状態を踏まえると、被害者に無性に甘えたい衝動からで性的なものは期待していなかった。(差し戻し審で提出した)犯罪心理鑑定報告書は、人恋しい気持ちの中に、性的に誘ってもらえればそうしたいという気持ちが含まれていたとみるのが自然だと指摘している。
被害者への抱きつき行為やその後の行動には、無理やり、性交しようとする意思の表れを見いだすことはできない。被告に殺害や強姦の計画、強姦の故意はなかった。殺意はなく、傷害致死罪となる。
◆事案の真相
被告は自宅のあるアパート別棟を出て、戸別訪問を思い立ち、10号棟から9号棟、8号棟、被害者宅のある7号棟まで順番に回った。被害者宅の前に訪れたのは15部屋、人が対応してくれた部屋は七つあった。
被害者の死亡後、被害児をあやして泣きやまそうとしたが、結果的に死亡してしまった。被害児の遺体を押し入れに入れたが、押し入れはドラえもんが居る場所であり、ドラえもんが何とかしてくれるという思いからの行為だ。通常の発想ではないが、精神的に追い詰められて退行現象が進み小学生の精神状態になってしまった。
その後、被告は自分の性的欲求に気づいた。予想していなかった2人の死が興奮させたのかもしれない。死姦行為に及んだが、以前読んだ小説で、死者が性行為でよみがえるエピソードからインスピレーションを受け、被害者によって投影された最愛の実母をよみがえらせたいとの衝動に突き動かされて行為に及んでしまった。
【情状論】
◆少年個人の未成熟と虐待
被告は、当審公判で、幼少時から死の恐怖を伴う父親の暴力にさらされてきたと供述しその暴力は児童虐待といえる。包丁を突きつけられたり、平手で殴られ鼓膜が破れるなどの虐待で精神的成長が損なわれた。
母親に対しても暴力が振るわれ、被告と母親はお互いが相手をかばうことで依存関係が形成された。被告が中学1年のときに母親が自殺。それが強烈な心的外傷となり、母親の死を受け入れられない精神状態に至った。
精神の未熟さなどによって対処能力を欠いた被告は、被害者の抵抗にあってパニック状態に陥り、被害者と被害児をも死に至らしめたもので、強姦目的の計画的犯行などではない。
◆改善可能性
被告は拘禁生活を送りながら、真摯(しんし)に更生への途を歩んでいる受刑者や教誨(きょうかい)師らと出会い、更生と生きる意欲を持つに至った。これは被告が自らの力で社会性を獲得していくことが可能なことを示し、更生可能性を示すものである。
【少年事件の量刑】
本件は精神的に未熟な少年による偶発的な事件であり、成人同様の非難を浴びせ、責任を負わせることはできない。刑はその減少した責任に応じて量定されなければならない。
被害者及び遺族の気持ちを酌むあまり被告に対する強い処罰要求へ転嫁することは戒めるべきで、遺族に対する同情は、一般予防の見地からその一考慮要素として、あくまで冷静にとらえられなければならない。
未熟であるが故の犯罪であるから、生きて将来に向けて責任をとることが求められる。
2008年4月15日