2008-04-22
■[児ポ法改正] FBI囮捜査に引っかかった日本人のIPアドレスは警察に渡っている模様
んと、その辺はもうちょっと心配した方がいいかも。信頼できる複数の筋から、FBIの囮捜査には結構な数の日本人が引っかかっていて、既に警察庁にIPアドレスが渡っているけれども、根拠法がないのでガサ入れできないだけだという話を小耳に挟んだし。日本の警察は国際的にみて極めて厳格に運営されていると信じるけれども、こと児童ポルノに限って欧米は日本の感覚と比べ際立ってヒステリックになっており、いくら日本で囮捜査が認められていないとしても、こういったケースで諸外国からの捜査要請を断ることは国際関係上も極めて困難になるだろう。
先日、米国でFBI捜査官がおとり捜査で児童ポルノを閲覧させて、そのサムネイル画像がローカルディスク内に見つかったことをもって、児童ポルノ単純所持の容疑で逮捕された人物の存在が話題になった。日本法ではおとり捜査は禁止されているので、このような恐ろしい事案は単純所持が規制されても理論的には生じることはない。
児童ポルノ単純所持規制は「意に反する」ものに限定すべき - ものがたり
■[児ポ法改正] 単純所持違法化を時期尚早と考える理由と改善案
あまりに長文なので分割した。全文はd:id:mkusunok:20080422を参照のこと。
最初に断っておくと、わたしは現時点で児童ポルノ法改正によって単純所持を違法化することに反対する。これは日本で
- 諸外国と比べ児童の対象年齢が広すぎ様々な社会的混乱を招くと考えられること
- 単純所持を取り締まりの必要性を正当化するに足る統計情報が提示されていないこと
- 古い出版物の意図しない保管まで違法となり実質的には法の不遡及に反する疑義があること
が理由である。
わたしはこの分野に疎いので、法的理解、技術的理解に誤りがあるといけないので、最近つらつら考えていることを記す。まず日本は先進国でみて子どもにとって最も安全な国のひとつであって、しかもその文化的背景から、児童虐待の多くは折しも先日直木賞を受賞した『私の男』に描かれているような幅広い意味での近親姦であり、いたずら目的の少女略取誘拐などの凶悪犯罪は米国や東南アジア諸国等と比べて極めて少ないのが現状ではないか。近親間児童虐待について諸外国よりも厳しい制度的措置をとる必要はあるのかも知れないが、犯罪予防のために単純所持を取り締まる合理的根拠が十分に示されているとはいい難い。
児童ポルノの単純所持と異なり、小児性愛の常習性は日本でも統計的に実証できるのであって、プライバシー等の人権や社会復帰を阻害するといった課題があるにせよ、単純所持を違法化する前にメーガン法のような再犯防止に資する制度を検討することが、児童の人権保護の観点でいえば喫緊の課題であろう。
米国のシーファー大使は米国で「児童ポルノに絡み有罪となった被告の85%以上が、子供への性的虐待を認めている」ことを根拠に閲覧、所持と犯罪との相関があると指摘しているが、これは米国でブロッキングを推進する論拠となっても、日本で単純所持規制を推進する理由とならない。何故なら、各国で法体系や文化、対処すべき犯罪実態の緊急性が著しく異なる以上は、日本国内での法制化は日本国内での犯罪統計に基づく相関性で議論されるべきであり、日本での新たな規制強化を検討するに当たっては、単純所持規制にように極めて強力な権限を政府に付与する場合は特に、日本国内での現行法で救済されない犯罪被害の数や、規制を検討している行為と犯罪行動との相関を示す統計に基づいて慎重に検討した上で、十分な法的安定性が担保されるべきと考えるからだ。国際的な圧力に屈して性急に法整備を図ることは、日本国の主権に関わる重大な問題である。
たまたま僕自身は基本的に年上好みで、稀に年下の成年女性に自分より大人を感じて惚れてしまうこともあるが、そういう個人的嗜好はさておき、児童、特に思春期以前の女児に関心を示す連中の嗜好を法的に保護する理由はいくら考えてもみつからなかった。少なくとも被写体児童の人権を保護法益とするならば、これは児童ポルノ製造犯の表現の自由に優先すると考えられる。けれども特にアジア人の場合、10代後半から20代前半にかけては体型も精神年齢も個人差が大きく、思いっきり大人な中高生もいれば、18歳を過ぎても小学生みたいな子もいるのであって、13歳以上18歳未満については本人から本当の年齢をいわれなきゃ分からないことを懸念している。単純所持を違法化してしまうと、普通にアダルトサイト等をみただけで、知らないうちに児童ポルノ法違反を犯してしまう危険が考えられる。児童ポルノ製造と異なり、入手や閲覧、単純所持の場合に被写体の実年齢を確認することは限りなく不可能に近いと考えられるからである。
自分が小学生の頃を振り返ってみると、早い子は胸が膨らみはじめてはいるけれども、18歳以上と見紛うほどの子は記憶にない。これは単に僕の世界が狭いのであって、世の中は広いからいろいろなひとがいるのかも知れないが、極端な例は裁判で情状酌量すれば済むのではないか。だから整理として社会的混乱を避ける為に、刑法の性交可能年齢である13歳、憲法の結婚可能年齢である16歳や、諸外国の規定なども参考にしつつ、例えば13歳未満は一律に単純所持を禁じ、13歳以上18歳未満については所持者からみて当該情報の製造・頒布・所持等が明らかに被写体の「意に反する」と合理的に推定できる場合に限って、単純所持を罰することが妥当かつ現実的ではないかと考える。
また、実家に保管したまま捨て損ねた児童ポルノ法施行以前の成人雑誌等については、モデルと所持者が知り合いである可能性は例外であって「意に反する」と合理的に推定できないと整理するか、更に法的安定性を高めるためには児童ポルノ法施行以前に刊行された出版物の所持に限って、児童ポルノ法施行以降に入手したことを確認できない限りは罰しないことを明記しては如何だろうか。現児童ポルノ法で売買を既に禁じているのだから、この免責が児童ポルノの流通を促すとは考え難い。
■[児ポ法改正] ブロッキングを違法と考える理由と アンチウイルス+責任制限方式の提案
ところで新聞紙上等でブロッキングについて話題となっているが、欧州で行われているDNSベースのブロッキングに関しては、日本法に於いては憲法や電気通信事業法に違反する公算が高い。というのも、確かにプロトコルレベルでみればDNSとHTTPとは別の通信として考えることもできるが、本来はWebページを取得描画する一連のシーケンスの中にDNSを利用した名前解決があるのであって、仮にIP層でのパケットフィルタリングを行っていなかったとしても、通信を阻害することを企図して特定URLに対する名前解決の提供を阻止することは、実質的には検閲を構成すると考えられるからである。
また欧州方式について現実的に考えた場合も、DNSで特定ホストに対する接続を阻害することは、対象となる児童ポルノ画像に限らず、幅広いコンテンツを閲覧不能としてしまい、かつ、ブロッキングとは大人も対象とした閲覧制限であり、その事実を公知とすることはできない。そうすると、たまた児童ポルノ画像と同じサーバーに公開されていたコンテンツまで閲覧不能に陥ってしまい、こちらは憲法の定める表現の自由や、電気通信事業法の定める利用の公平に明らかに反する。
また、検索エンジン各社の提供するイメージ検索機能は、仕組み上どうしても大量の児童ポルノ画像を閲覧可能としてしまう可能性があるが、かかるサイトをブロッキングすることはネットの利便性を著しく損ねる一方で、これを例外にしてしまうと中小ISPやホスティング事業者を狙い撃ちすることとなってしまい、憲法の定める法の下の平等や、電気通信事業法上の利用の公平に著しく反する。
従って少なくとも日本国憲法と電気通信事業法を大幅に改正しない限り、欧州方式のブロッキングを日本で導入することは極めて困難であろうと考えられる。
では日本の法律で認められ、欧州方式と比べて精度の高いブロッキングを行うことは技術的に可能だろうか。最も有効かつ柔軟で法的問題を回避できる方法としてアンチウイルスソフトウェアの利用が考えられる。つまり児童ポルノ画像を所持しているだけで違法となるならば、そういった法的リスクから利用者を守る機能をアンチウイルスソフトウェアに実装してはどうかという提案である。
機械的な識別だから100%ブロックできる訳ではないが、DNSホスト名ベースの欧州方式と比べて遥かに高い精度を実現できる上、そういったソフトウェアを実行し続けているだけで、かかる画像を収集する意図がないことを立証できる。単なるビット列で識別すると圧縮率の変更や落書きによって回避できてしまうが、最近はYoutubeの海賊版識別ツールのように、画像・映像の類似性を検出できるツールが数多く提供されており、かかる技術を応用することで、欧州方式よりも遥かに高い識別率を実現できると考えられる。
技術的にはホスト単位のDNS名前解決制限である現行のブロッキングでは、必然的に9割以上のフォルスポジティブが発生するが、アンチウイルス方式ならフォルスポジティブの確立は極めて低く、技術革新によって精度を上げていく余地が極めて大きい。また、かかるソフトウェアの利用を義務づけることは、欧州方式と同様に実質的な検閲に当たる疑義があるものの、その利用を児童ポルノ画像を収集する意図がないことの意思表示、免責の条件として認める限りに於いては現行法と整合的であると考えられる。
この方式は責任制限が主眼であり、消費者にとって一義的には何ら不利益がないと考えるが、いくつかの懸念はある。まず、こういったことができるということが前提となった途端に様々な政策需要が噴出してしまうことである。Winny等によって、児童に限らず本人の意志に反したポルノ画像が大量に流出している他、エステの顧客情報、学校の通信簿、日銀、防衛省、警察などの機密情報が漏洩している。今のところ対処の手だてがないことになっているが、漏洩した機密情報の所持そのものを違法化し、検出ソフトの稼働を責任制限の要件とすることで、同様の効果を得ようという社会的圧力が生じる懸念があるし、そこには守るべき明確な法益があると考えられるからだ。
正直なところ、この方式は欧州のブロッキングと比べて遥かに洗練されており、日本法との整合性は高いと考えられるものの、レッシグ流の憲法学などと照らした時に、倫理学的、法哲学的に正しいかは疑義がある。また透明性を確保することが困難であることも頭の痛い問題である。透明性について技術的解決が難しければ、監視や規制対象の範囲や濫用行為に対して一定の規制を課すことも考えられる。
このアイデアをブログに書くことは少し悩んだが、僕がブロッキングについてたった数日間考えた結果に過ぎず、きっと誰かが思いついて何か穴があって諦めた気もするし、その理由が知りたいこともあって書いてみた。この方式は欧州のブロッキングと比べて遥かにマシではあるが、それが広く受け入れられるような社会は、決して僕の望んでいる世界ではない。できれば将来に対する懸念よりも、それを行うことが如何に法的、倫理的な観点で問題があるかについて、幅広い意見をいただきたい。