◆規定厳格に適用--沢登俊雄・国学院大名誉教授(少年法)
死刑制度がある以上、やむを得ない判決だ。更生可能性を指摘した1審、2審判決と違い、今回は、残虐性や社会的影響などを考慮した点で永山基準に沿った判断といえる。最高裁は、死刑選択を回避すべき「特に酌むべき事情」の有無を審理するよう差し戻したが、弁護側は殺意の否認に転じ、反省の念がないことを表す格好となった。元少年の年齢についても、18歳以上であれば死刑を科すことを可能としている少年法の規定を厳格に適用したといえる。
◆影響は限定的--永田憲史・関西大学法学部准教授(刑事学)
この事件は殺害の計画性のなさなどから、判例で形成されてきた従来の基準なら無期懲役でもおかしくない。判例変更には最高裁大法廷での審理が必要だが、この事件は小法廷で「量刑が不当」と差し戻された。今回の判決が、今後の死刑求刑事件に与える影響は限られるだろう。ただ、同じ事件で裁判所の量刑判断が分かれたことは望ましくない。裁判員制度の実施を控え死刑の選択基準については法律で具体的に示すことを検討すべきだ。
◆少年の死刑増える--菊田幸一・明治大名誉教授(犯罪学)
今回の高裁判決は、少年への死刑の適用が今後増えるきっかけとなるだろう。そもそも、この事件は被害者の数など従来の死刑適用基準からは外れている。しかし、最高裁は被害者感情を中心とした世論に迎合し、死刑基準を変えないまま高裁に差し戻した。高裁は今回、最高裁の求めに従ったに過ぎず、司法権の独立を放棄したに等しい。死刑廃止は国際的な流れであり、裁判員制度の実施を前に、一人一人が厳罰化の是非を冷静に考えていくしかない。
◆事件の記録残して--漫画「家栽の人」原作者でメールマガジン「少年問題」編集長、毛利甚八さん
判決は裁判官が独立して決めることなのでどうこう言えないが、判決文で、被告の成育歴など事件の背景をきちんと認定し、記録として残すことが重要だ。死刑判決が出たことで、世の中にはホッとしたり、スッとした人もいるだろう。本当にそれでいいのか。被告は子供のころに虐待を受けており、その時、児童相談所は機能したのか、国民一人一人が真剣に考えるべきだろう。それが、奪われた被害者の命に対する社会の責任だ。
毎日新聞 2008年4月22日 東京夕刊