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母子殺害に死刑 「不当判決で厳罰化加速」弁護団が批判

2008年04月22日23時08分

 山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審で、広島高裁が被告の元少年(27)に死刑を言い渡したことを受け、弁護団は22日午後、記者会見し、「極めて不当な判決だ」と述べた。また、閉廷後に面会した元少年の様子について「至って冷静だった。僕らの方が冷静じゃなかった」と語った。

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記者会見に臨む主任弁護人の安田好弘弁護士(中央)と本田兆司弁護団長(右)ら=22日午後3時、広島市中区の広島弁護士会館、溝脇正撮影

 主任弁護人の安田好弘弁護士は「専ら捜査段階の供述に信用性を置き、客観的証拠や(鑑定などの)専門的知識による供述の見直しが行われることは一切なかった」と判決を批判。さらに「死刑はやむを得ない時だけ適用するという従来の考え方から、凶悪な事件はまず原則として死刑とする考え方に転換してしまった。『疑わしきは被告人の利益に』の哲学と全く反している」と述べ、判決をきっかけに厳罰化が加速するとの考えを示した。

 主張が認められなかった理由については「証拠が不足していた。なぜ、この時期に新供述が出てきたのか、裁判所にわかるよう具体的に出すべきだった」と説明。上告書を出したのは閉廷直後。「正しい判決を出すよう強く求めていきたい」と述べた。

 元少年には山崎吉男弁護士ら4人が面会した。報道機関に言いたいことはないか尋ねると「今まで自分が述べてきたことで、記憶違いがあるかもしれないけど、すべて自分にとって真実」と話したという。また、これまでと同じように、遺族に対し判決にかかわらず一生謝罪を続けたいと語ったという。

     ◇

 弁護団会見の主なやり取りは次の通り。

 ――上告した理由は

 判決は著しく正義に反する。事実を誤認し、量刑も不当だ。また、従来の判例(永山基準)を逸脱している。

 ――なぜ起訴から6年半で元少年の供述は変わったのか

 裁判所は「最高裁の弁論期日が入り、死刑を回避するために虚偽の供述をした」としているが、被告人が初めて新供述を語ったのは、期日が入る2年前、教誨(きょうかい)師に対してだった。話せる相手には、ずっと前から話していた。裁判所は前提を間違っている。

 ――犯行時18歳の元少年に死刑が言い渡されたことで、今後考えられる影響は

 この事件は、厳罰化のために使われたと言える。従来は、「やむを得ないときだけ適用が許される」のが死刑という刑罰だった。しかし、この事件以降は、凶悪な事件は「原則死刑」となっている。今回の判決で、厳罰化はますます加速するだろう。

 ――元少年の利益を考えれば、事実認定を争わなくてもよかったのでは

 それは弁護士の職責としてあり得ない話だ。真実を出すことで初めて、(被告人に)反省と贖罪(しょくざい)が生まれると思っている。もちろん、悩みながら活動してきたし、全面的に正しいとは思わない。もっと証拠を出すべきだったし、なぜ供述が変わったのかを、もっとわかりやすく説明すべきだったという反省もある。しかし、弁護団で議論し、(事実認定を争う方針が)一番正しいという自信を持ってやってきた。

 ――今後、少年にどう生きてほしいと思うか

 (贖罪などの)被告人の目標がしっかりしていれば、自暴自棄に陥ることはない。弁護団として、彼の気持ちや、やりたいことを思い切り支えようと思う。

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