3. 何が最悪なんだろうと自問する
哲学者バートランド・ラッセルの『幸福論』という本を若いころ英語で読んだ。その本では、仕事や人生に行き詰まったら何が一番最悪だろうと自問しなさいという勧めがあった。追い詰められたような気分の時は、最悪の事態が怖くて向き合えないものだが、そこをあえて想像で向き合ってみると心の区切りがつく。
身体が「ノー」と言い出す状態について扱った、書名もそのまま『身体が「ノー」と言うとき ― 抑圧された感情の代価(ガボール・マテ著)』という本がある。この本は難病やがんの背景に身体が「ノー」と言えなかった状態を想定している。
こうした想定は現在の医学では認められていないし、実際に病気で苦しんでいる人に心理的な問題があるとは決して言えない。それでも、次のように説かれるネガティブシンキングの大切さについては、受け止めてよいだろう。
私の言う「ネガティブ思考」は、現実主義を装った暗くて悲観的な考え方ではない。それはむしろ、何がうまくいっていないのかを考えてみようという姿勢なのである。バランスを乱しているのは何だろう?私は何をないがしろにしてきたのだろう?私のからだは何に対して「ノー」と言っているのだろう?こうした問いかけをしないかぎり、私たちのバランスを乱しているストレスはいつまでも隠れたままなのである。
さらに重要なのは、こうした問いかけをしないこと自体がストレスの原因になるということである。なぜなら第一に、「ポジティブ思考」はその根本に、自分には現実に対処するだけの力がないという無意識の思い込みを抱えているからだ。
経験的な観察なのだが、あまりにポジティブな人にはどことなく嘘くさい雰囲気が漂うことがあり、共感を元にした深い信頼が築けないことがある。適度なネガティブシンキングは人間らしさを回復させる。