物事をポジティブに考えるのがよいという人がいる。「ネガティブシンキングの勧め」なんてとんでもないと思う人もいるはずだ。ここでお勧めしたいのは、なんでもネガティブに考えるということではなく、身体に「ノー」を言わせない感覚を身につけるための、手段としてのネガティブシンキングだ。
身体に「ノー」を言わせてしまった人の有名な例は、2007年9月12日の安倍晋三元首相の突然の辞任だろう。文藝春秋誌の寄稿によると、彼は青年時代から潰瘍性大腸炎という難病をかかえていたそうだ。もともと身体が「ノー」と言いやすい悪条件を抱えていて、それが難しい政局でいよいよ無理になってしまったらしい。
本人としてはつらかっただろうが、身体が「ノー」というまで自分を追い込んでしまったのでは、社会人として自覚が足りないと言われてもしかたがない。エッセイスト山口瞳は『礼儀作法入門』で、社会人の一番の礼儀は健康維持とまで言っている。
いつもは健康な人でも、きつい仕事やプライベートのつらい出来事が重なると、身体が「ノー」と言い出す。過労で倒れたり、不注意から大怪我をしたり、心理的なパニックに陥ることは誰にでも起こりうる。そこまで身体を追い込まないようにするにはどうしたらよいか。難しいのだが、私はネガティブシンキングとして3つのことを考える。
1. あともう一歩をやらない
あともう一歩でできる、もう一踏ん張りでなんとかなる、以前はここまで出来た……。そういう「もうちょっと」感が出てきたら、それを赤信号に、いったん作業をそこでやめる。
仕事はそんな甘いものではないという意見もあるだろうが、経験的には「あともう一歩」というときはすでに危険信号になっていることが多い。
2. とにかく1時間じっとする
疲労感が溜まってそのままぐったり眠れるならよいが、緊張が過度に高まっている時はそうもいかない。その場合、時間に追われているのは分かるのだが、あえて1時間じっとしてみる。
以前知り合いにこの話をしたら、「私はそういう時は、山手線に乗って一周しましたよ」と答えてくれた。滑稽だが、気晴らしではなく、自分を見つめる工夫としては有効かもしれない。