2008年04月23日

カラシニコフ自伝

 先日、エージェントのエリカが、
「高木さん、最近、読むものありますか?」と言うなり、俺の返事も待たず、一冊の本をバッグから取り出した。
『カラシニコフ自伝』(朝日新聞出版)という、新書サイズの、さほど厚くもない本だ。
「俺が隠れ銃器マニアと知っての推薦かい?」
「とてもいい本らしいのよ」

 読みさしの本はいくつかあったが、ある電車の中で開き、開巻一番、
「これはスゴい」と思った。
 以来、つまみ食いするように読んでいる。
 まことこういう書籍があれば、各駅停車の電車なんぞも、苦にならないのである。

 読み進み、ますます名著だと感動した。
 ロシアの風土が判るのも、北海道で生まれ育ったがゆえかとも思う。

 共産圏のみならず、アラブゲリラにまで浸透している、いわく、
「世界一有名な銃──AK47」を設計した男、ミハイル・カラシニコフの、骨太な自伝である。
 高等教育もなく、シベリア流刑の身にあった農民から、鋼鉄製の銃器というものへの執着と天賦の才によって、結果、数奇な人生を送ることになった男の話だ。
 加えて、様々な政権=権力者の思惑に翻弄された、革命後ソビエトの、過酷な歴史もよく判る。
 想像を絶する圧政や、飢饉や、インフレや、格差や、それらによる民心の乱れや。
 ──まるで、今日の、どこかの国を暗示するようでもあり、空恐ろしい。

 8割を読み、
「これじゃあ今夜中に、読み物が無くなってしまう!」と危惧を感じていた頃、彼の中年から晩年を襲った悲劇に出くわし、あまりの驚きに、巻を置かざるを得なかった。

 カラシニコフという銃を、私は特に美しいものとも優れたものとも思っていなかった。
 だが、戦場において「兵士達を裏切らない銃」というのは、大切なテーゼだ。
 芸術作品に対するか、あるいはむしろそれより強い情熱と愛国心(このあたりにはまだ、晩年のカラシニコフ氏にも、歯切れの悪いものが残る感があるが)でそれを成し遂げた彼の業績には、驚いた。
 しかし、つまり優れた武器とは、優れて人を殺傷するものであるわけだ。
 芥川竜之介による『地獄変』にも似た、芸術家、職人の、燃え上がるような思いをかいま見ながら、そこにまつわる悲しい運命に慄然としたまま、数十ページを残したままなのである。
posted by TAKAGISM at 00:45| Comment(1) | 読書
この記事へのコメント
2年ぶりに高木さんの書いた文章を読んで
かなり体の中の悪細胞が死滅した感。
土下座Tと白い箱の中で過した日々は
無駄ではなかった。
今はcrimson roomが
届くのが楽しみです。
Posted by 晴れ at 2008年04月23日 01:20
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