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【主張】インサイダー取引 野村とは聞いてあきれる
証券会社の社員がインサイダー取引に手を染めるとは、あきれてしまって言葉も出ない。
証券最大手の野村証券の中国人社員が、企業の合併・買収(M&A)に関するインサイダー情報を悪用し、不正な利益を得ていた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会は事情聴取を行った。東京地検も強制捜査に踏み切った。
中国人社員は企業情報部に所属し、顧客企業に直接、M&Aをアドバイスする立場だった。このため、合併などの重要情報を発表前に容易に知ることができ、その情報を知人の中国人の兄弟に伝えて株の売買をさせ、個人的な利益を得ていた。
証券マンにとって、インサイダー取引をしないというのは基本中の基本である。野村は、総会屋に対する利益提供事件や大蔵省(現財務省)に対する接待汚職事件などの不祥事が起きる度に、コンプライアンス(法令順守)の徹底を誓ってきたはずである。
社員のモラルの低下は、金融市場の信頼を揺るがせる重大な犯罪につながる。同社は確信犯だと情報管理は難しいとしているが、それは言い訳にすぎない。証券業界のリーダーとして責任は極めて重いと言わざるを得ない。
今回の事件は、グローバル時代におけるコンプライアンス教育の問題点も浮き彫りにした。
野村はアジアでの業容拡大をめざして優秀な外国人を積極的に採用している。この中国人社員も日本の大学に留学した後、野村に入社、いまは香港駐在である。
多国籍の社員らは、さまざまな文化や習慣を有している。しかし、グローバル化が加速している以上、共通のコンプライアンスを徹底させるのは当然である。とくに金融市場のルールは万国共通のはずであり、金融業界にはその教育方法の再点検を求めたい。
日本の株式市場は、米国発のサブプライムローン問題と米国経済の減速の影響で低迷が続いている。市場が不正でゆがめば、投資家の離反が進む。市場の活性化は、規制緩和や税制見直しなどだけではなく、透明性をいかに高めるかにかかっている。
今国会では、インサイダー取引の課徴金引き上げに関する法改正も審議されている。再発を防止するためにも、司法当局や金融庁は、厳しい姿勢で今回の事件に臨んでほしい。