ヒマラヤ山脈東端の小国ブータンの通産省で会議が開かれた。国を発展させるのに何を輸出するか。ある官僚が提案した。「時間ならあり余っている」。
こんな笑い話が出るほどブータン人の生活はゆったりとしていた。仏教研究のため一九八一年から十年間滞在した今枝由郎さんが、近著「ブータンに魅せられて」(岩波新書)で記している。
人口約六十万人、面積は九州とほぼ同じ。農業を主とする貧しい仏教国だ。国の目標として前国王が掲げた国民総幸福(GNH)という理念に最近注目が集まるようになった。先進国で経済成長で国民が幸せになるという考えに疑問が生まれているからだ。
総幸福では、開発だけでなく文化振興や自然保護も重視する。自動車道路は、住民協議を優先し造らない選択もある。外貨収入は求めず登山は永久に禁止した。森林は国土の六割以上を維持するなどだ。
日本の青年海外協力隊員の中には、近代化の歩みの遅さにいらだちもみられた。しかし今枝さんは、仏教を中心とした精神文化、家族や共同体を大切にするブータン人と生活していると、本当の豊かさとは何か考えさせられるという。
ブータンでは、前国王の決断で年内にも新憲法が制定され、立憲君主制へ移行するようだ。もっとブータンを知りたくなった。