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【特報 追う】若手教員不足、20代は4%…地方の学校“崩壊”危機 福島
「福島県の学校教育はあと10年で崩壊するかもしれない」−。にわかには信じがたい話を先月、福島市内で中学校の男性教諭(40)から聞いた。昨年、文部科学省が実施した全国学力テストで、ほぼ全国平均の成績だった福島県。しかし今月16日に県がまとめた統計資料などを調べると、なかなか信憑(しんぴょう)性を帯びたものだと分かってきた。福島県、そして地方の学校教育に忍び寄る危機を探った。(小野田雄一)
この教諭が教育崩壊への要因になると指摘するのは、(1)若手教員の不足(2)教員の年齢や配置の偏り−の2点だ。
まず、本当に若手教員は不足しているのだろうか。
福島県の統計によると、昨年度の県内公立中学校の教員数は4168人。うち20代は187人で全体の約4・5%。小学校の教員も、6671人のうち20代は282人で、約4・2%だった。
同様の統計を出している千葉県の場合、昨年度、20代の教員の割合は中学校が11・2%、小学校は15・5%で、福島県の2〜3倍も占めていた。
なぜここまで違いがあるのか。福島県教委学校経営支援課の杉昭重課長は「福島は少子化による学校統廃合などで教員の採用数が減っている。子供が多い首都圏は教員採用数が多く、若い人も採用されやすい」という。実際、福島県が今春採用した教員は小学校が前年比25人減の41人、中学校が同11人減の38人だった。
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では、若手教員が少なくなると、どんな問題が生じるのか。
前出の教諭は「若手は地方に配属される場合が多く、福島や郡山など都市部では年配の教諭が多くを占めている。地域的に教員の年齢の偏りが起こり、本来はベテランが若手に伝えるべき教育技術が、都市部でも地方でも伝承されにくくなっている」と嘆く。
これについて杉課長は「都市部に配属を希望する教員は多い。その結果、新採用の教員には地方に赴任してもらわざるをえない。それでも最近は、バランス良く教員を配置するよう心がけている」と説明する。
福島大学で地域と学校との関係などを研究している谷雅泰・人間発達文化学類准教授は「年配教員からの技術伝承が難しくなっているのはもちろん、若手の減少で若手同士での指導法の勉強会なども開きづらくなっている」と指摘する。
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地方で定員が減ることに伴い、教員志望者が首都圏に流れる傾向が、進んでいる。
福島大学によると、20年度に同大から福島県の正教員になったのは小学校9人、中学校2人だけ。しかし他県採用はそれぞれ小学校33人と中学校10人で、多くは首都圏に採用されているとみられるという。
福島県教委によると、福島県の近年の公立小・中学校の教員採用試験の平均倍率は約20〜40倍の超難関。首都圏では10倍を切ることも珍しくないという。
青森県の弘前大学(弘前市)では、首都圏の採用試験を受ける生徒のためにチャーターバスを平成17年から用意している。「青森県に採用されるのは難しく、首都圏での採用を援助するため。就職率を上げるためにも、今後も継続する」という。
一方、教員を多く採用したい千葉県は、今年度から小学校教員の1次試験を岩手大学(盛岡市)で実施することを決めた。
こうした現状に対し福島県は、教員の中途採用を活用しようとしている。「首都圏に就職した教員には、いずれ福島に戻りたいと言ってくれている人が何人もいる。そうした人には中途採用試験を用意している」と杉課長。首都圏で経験を積んだ県出身の教員が、将来的に福島に戻ってくることを県教委は期待している。
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教員採用が減ることで、教員の年齢構成が崩れ、教育技術が受け継がれなくなり、ひいては教育力が落ちていくという悪循環。もっとも簡単な解決策は教員採用を増やすことだが、「少子化が進む中、採用数が劇的に増える見込みはない」(杉課長)のが現状だ。
地域による教育格差は進んでいるといわれる。「ゆとり教育」の実施に伴い公立学校での学習時間が減った際、首都圏では私立学校や学習塾の需要が高まり、不足分を補うことができた。しかし、そうした私立や塾がなかった地方では、学習の機会が減ったままで、教育を受ける機会の地域間の不平等が進行したと指摘する声がある。
地方に暮らす子供たちにとって、公立学校は唯一の頼り。その地方で、教員希望者の流出が続き教育力の低下が進んでいるとすれば、まさしく「教育崩壊」の危機と言わざるを得ない。