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光母子殺害、元少年に死刑 「新供述は不合理」 '08/4/22

 光市母子殺害事件で殺人などの罪に問われた男性被告(27)=犯行時十八歳と三十日=の差し戻し審判決が二十二日、広島高裁であった。楢崎康英裁判長は「死刑を回避する事情は見いだせない」とし、一審山口地裁の無期懲役判決を破棄し、死刑を言い渡した。殺害被害者が二人の少年事件に死刑が言い渡されるのは極めて異例。性的暴行目的など悪質さが際立つ事件では今後、殺害被害者数などよりも被害者遺族の処罰感情などを重視する司法判断が定着し、少年犯罪の厳罰化も進みそうだ。

 ▽広島高裁 差し戻し審判決

 楢崎裁判長は、被告が上告審や差し戻し審になって、犯行態様や動機などを否認した新たな供述について「変遷は不自然、不合理」と強調。弁護側の主張を次々と退け、「一審の認定に事実誤認はない」と述べた。

 本村洋さん(32)の妻弥生さん=当時(23)=の殺害方法については、「右逆手で頸部(けいぶ)を圧迫したという新供述と遺体の所見とは整合しない」などと判断。

 本村さん宅のあったアパートの戸別訪問については、「寂しさを紛らわすためという供述は信用できない」などと性的暴行目的の計画性をあらためて認定した。夕夏ちゃん=同(11カ月)=の殺害についても「記憶が欠落したという供述も信用できない」などとした。

 その上で量刑理由について言及。「性的暴行目的の自己中心的な犯行。動機や経緯に酌量すべき点はみじんもなく、遺族の処罰感情は峻烈(しゅんれつ)を極めている」と強調した。

 「公判では虚偽の弁解を重ね、罪の深刻さと向き合うことを放棄し、死刑を免れようと懸命になっているだけだ」などと指弾。「死刑を回避する特に酌量すべき事情を見いだす術もなくなった」などと結論づけた。

 昨年五月から重ねた審理で、弁護側は二審まで争わなかった犯行態様や動機に「事実誤認がある」と主張・立証を展開。被告も二審までの供述を翻し、乱暴目的や殺意を否認する主張をしていた。

 一、二審は更生可能性があるなどとして死刑を回避したが、最高裁は死刑を回避する特別な事情はないと判断。特に酌量すべき事情がないか審理し直すよう同高裁に差し戻していた。

 関係条文

 少年法五一条一項 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する。

◇    ◇    ◇

 光市母子殺害事件

 1999年4月14日、光市のアパートの会社員本村洋さん(32)方で、妻の弥生さん=当時(23)、長女夕夏ちゃん=同(11カ月)=の遺体が発見された。山口県警は4日後、当時18歳の男性被告を殺人容疑で逮捕。山口地検は殺人と女性暴行致死、窃盗の罪で起訴した。検察の死刑求刑に対し一、二審は無期懲役としたが、最高裁は2006年6月、二審判決を破棄、審理を広島高裁に差し戻した。

◇    ◇    ◇

 永山基準

 連続射殺事件の永山則夫元死刑囚(1997年に刑執行)の第一次上告審判決(83年7月)で最高裁が無期懲役の二審判決を破棄した際に死刑の判断基準として示した。(1)犯行の罪質(2)動機(3)態様(4)結果の重大さ、特に殺害被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状―の9項目を挙げ、罪と罰の均衡や犯罪予防の観点からやむを得ない場合、死刑の選択も許されるとした。

【写真説明】<上>判決言い渡しを直前に控えた広島高裁の法廷。中央奥は楢崎裁判長=22日午前9時55分(撮影・今田豊)<下>妻と、まな娘の遺影を手に、広島高裁に入る本村さん=22日午前9時40分(撮影・坂田一浩)




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