社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:聖火長野へ 中国は世界の懸念をぬぐえ

 北京五輪の聖火リレーが26日、長野市で行われる。10年前、国内で3度目の五輪開催に沸いたゆかりの地だが、今回は厳重な警備に囲まれた重苦しいリレーとなりそうだ。

 今月1日、北京を出発した聖火は五大陸21都市を巡る旅に出た。だが「平和の祭典」を象徴する聖火は行く先々でチベット人を支援する人権団体などの抗議を受け、大混乱の中で迎えられている。

 長野も例外ではない。リレーの出発地に予定されていた「長野の顔」善光寺は混乱を回避するため辞退、出発地は県施設跡地に変更された。長野県警は当初予定していた警備態勢を見直し、近隣県警から応援を求めるなど大幅に増員して不測の事態に備えている。

 主張がどうあれ、暴力的な手法でリレーを妨害する行為はとうてい容認できない。長野市民が聖火を目にすることができないような過剰な警備は考え物だが、万全を期してもらいたい。

 今回の聖火リレーをめぐる混乱は、五輪運動を考える上では貴重な契機となると考えたい。

 五輪の原点はメダル数を競い、国威を発揚することではない。人種や宗教、言語などの違いを超え、スポーツを通じて友好を深め、平和な世界を築き上げることに本来の目的がある。五輪開催国(本来は都市なのだが)は、その崇高な理想を実現するために課せられた重い使命がある。

 北京五輪期間中、北京は情報の一大発信地となり、世界の目は北京に集まる。政治、経済、文化から人々の暮らし向きまで、すべてをさらけ出す覚悟が五輪開催国には求められる。普段は他国の干渉を受けない事柄までも「国内問題」でふたをすることが許されない事態にもなる。

 聖火リレーの混乱以前から、北京五輪にはさまざまな懸念材料がある。深刻な大気汚染がスポーツ選手に悪影響を及ぼさないか、食の不安が解消できるのか、などなどだ。

 聖火リレーの混乱に対する中国国内の激しい反発も気がかりだ。パリでの聖火リレーの混乱後、中国国内にあるフランス資本のスーパーマーケットを標的にしたデモが起きている。サッカーの大会を契機にした4年前の反日騒動を思い起こさせる、排外的色彩の濃い不穏な事態だ。

 中国はいま「平和の祭典」のホスト国としてふさわしい国かどうか、言葉を換えれば国際社会の声に謙虚に耳を傾けることができる国なのかどうかを改めて世界中から試されている。

 聖火リレーは祭りの前触れにすぎない。8月8日から始まる本番の五輪に、聖火リレーの混乱を持ち込んではならない。スポーツを愛する世界の人々が8月の五輪を心待ちにしていることを北京五輪関係者は深刻に、重く受けとめなければなるまい。

毎日新聞 2008年4月22日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報