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【広島から その1】

昨日(25日・月)の夜から広島に入っている。先月に引き続き、山口・母子殺害事件の裁判を傍聴するためだ。今日(26日)から3日間、被告人質問などが行われる。http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/local/yamaguchi_hikari_murder/ 
最近会う誰しもから、「何でまた君がそんなことやってんの?」と,、かなり不思議がられているが、自分でもそう思う。まるで入社一年目の新人新聞記者のように、一から裁判のことを最近勉強している。法律は確かにややこしい、難しい。本当にこの手の取材は素人も同然だが、無性にこの事件の「経緯・詳細」と、この裁判をめぐる世の中の反応から目が離せなくなったので結局広島に来た。

さて、前回5月も1000人の傍聴希望者が並んだが、今回もほぼ同じぐらいの人数だった。一般傍聴席は35だから、当然のごとく前回同様抽選で外れた。だが、今回の取材で何度もお世話になっている人から傍聴券を一枚譲っていただいた。何という親切な人なんだ!本当にありがとうございます。

ということで、この注目の裁判を傍聴することができた。裁判の傍聴自体は最高裁や東京地裁で最近も何度も経験あるのだが、今日のような「傍聴満席」ケースは初めてだ。6列の傍聴席のいちばん後ろに座ったが、3つ前の席に本村さんら遺族の方々、左斜め隣は作家の佐木隆三さんだった。佐木さんはさすがに慣れた手つきでずっとメモ用紙に筆を走らせていた。

これまで拘置所で本人に接見した何人かの人から聞いたとおり、被告の元少年(現在は26歳)は、顔つきが本当に幼く見える。思った以上に小柄で、街を歩いていたら今でも高校生ぐらいにしか見えないかも。前回の裁判では「太った」という感想・描写が多かったが、以前の体型を知らない僕から見ると、別に「太った」ようには見え
ない。毎日筋力トレーニングに励んでいるというから、むしろガッチリした体型のように見える。

法廷マイクを通して聞こえる彼の声は小さく、か細い。だが、弁護団からの犯行当時の状況・様子を聞く質問には、ディテールまで具体的にはっきり、そして丁寧に答えていた。犯行当時の様子を話すときは「(弥生さんは)両手で財布を持たれていました」「僕の主観で申し訳ないのですが弥生さんは…」など、ほとんど敬語で貫いていた。答えるときの口調の語尾が「…次第であります」「…と認識した次第であります」という言い方も多かった。初めて見る僕からすると不思議に見えたが、弁護団の話やこれまで会った人たちからすると、これまでもそういう話し方をよくするという。過去に何度も事情聴取や取調べを受けているからなのか、公判後に弁護団の一人は「彼なりに言葉を勉強している。敬語の言葉も覚えた」。僕は「弁護団から彼に法廷でそう話すように伝えたのですか?」とあえて質問してみたが、弁護団は失笑して、「いや、それはないですよ」と反論していた。

前回の公判では弁護団が話す主張は誰が見ても聞いても、「無理がある」と思ったが、今回被告本人から順を追って犯行当時の経緯や様子を聞いてみると、実はそれほど不自然な流れや、つじつまが合わないと思われる部分はない。また、本人も覚えていないことや記憶があいまいな箇所ははっきりと「当時は…」「後から…」「今思うと…」など、かなり厳密に区分けしている。また弁護団が「(動かなくなった弥生さんを見て)放心状態のとき…」と聞くと、「いえ、呆然とした状態です」ときっぱり言い換えたりしていた。悪く見れば逆に「整然とし過ぎ」な説明のように思えるかもしれないが、「自分自身の言葉」で話すというよりも、確かに誰かに伝えようという意思は感じられる。これまでの地裁・高裁公判を傍聴した人によると、そこは大きな違いのようだ。

活字メディアで見ると、以下のやり取りが確かに大筋だが、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070626-00000910-san-soci これまで特にテレビメディアで「法廷イラスト」「声の吹き替え」「字幕スーパー」ばかり見てきたせいか、実際の本人の声や答え方、言い回しや語尾とは大きな差があるというのが実感だ。

この裁判を冷静にとらえて、新たな証言・事実・視点に迫ろうとする数少ないテレビディレクターやカメラマンたちが確かにいる一方で、相も変わらず先入観と余談と偏見に満ちているメディアもやはり多い。

今日(26日・火)付けの朝刊紙面のテレビ番組欄では、日本テレビ「ニュースZERO」は、「光市母子殺害元少年が法廷登場 ’母胎にに戻りたくて’奇妙な主張」と書いてあるけど、公判後のニュースならまだしも、まだ公判前なのにどうやって聞く前から「奇妙な主張」という見出しを事前に打てるのだろう? ちなみに今日の被告人質問のなかで、「母胎に戻りたくて」という部分はそもそもあったのかなあ?

明日も被告人質問が続くが、この事件を取り巻くストーリーや展開があらかじめ出来上がっているのは実はメディアの方で、もう少し複雑な「供述」が今後出てくるかもしれない。しかし、その供述が事実として認定されるかどうかは判決まで待つしかない。明日は特に検察からの反対尋問もあるので、それに被告がどのように答えるのかは一つのヤマ場だ。

でも、明日僕が法廷で傍聴できるかどうかはわからない。

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綿井健陽 WATAI Takeharu
Homepage [綿井健陽 Web Journal]
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映画「Little Birds~イラク戦火の家族たち」
公式HP http://www.littlebirds.net/
DVD発売・各地で上映中
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2007-06-27 02:50 
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