2008年04月20日 更新

【ヒューマン】世界のナベアツ、3度目の正直でアホになりました

サックス奏者、渡辺貞夫の愛称“世界のナベサダ”が名前の由来と言う世界のナベアツ。花を手に「ゴージャスに立てた前髪は、杉本彩さんと付き合う男がイメージ」と決めポーズ=東京都世田谷区のスタジオ

サックス奏者、渡辺貞夫の愛称“世界のナベサダ”が名前の由来と言う世界のナベアツ。花を手に「ゴージャスに立てた前髪は、杉本彩さんと付き合う男がイメージ」と決めポーズ=東京都世田谷区のスタジオ

 「3の倍数と3の付く数字だけアホになり、8の倍数だけ気持ちよくなります」。数を数えながら腰くだけ状態でアホに徹するお笑い芸人、世界のナベアツ(38)。今やテレビで引っ張りだこだが、38歳で大ブレークした超新星は、実は芸歴17年のベテランでもある。お笑いコンビ、ジャリズムとしてデビューし、一時は構成作家に専念。そして再び表舞台へ…。人生経験豊かな“奇才”の素顔に迫った。

(ペ ン・大塚美奈  カメラ・今井正人)

 ライブを終えて、取材に応じるために楽屋へ戻ってきたナベアツは、意外なほどおっとりとしていた。

 「僕がヒューマンに載るんですか。ビートたけしさんや島田紳助さんが過去に出ているコーナーなんですか…。あの〜、どんだけ僕を緊張させるんですかぁ?」。穏やかに笑う彼は、自分の大ブレークもどこか他人事。

 「いち、に、さぁ〜ん!」と変幻自在の声とアホな表情で数を数える「3の倍数−」ネタを昨年末から披露してきたが、2月の「R−1ぐらんぷり2008」で3位に輝き、知名度が一気に上昇した。

 「R−1は素で痛恨の顔をしてしまいましたね。順位発表の時、僕的には『さんいっ!』って言わなあかんのに」

 平成3年に山下しげのり(39)とコンビを組んだジャリズムでデビューしてから17年。世界のナベアツは長年の芸を重ねた末に誕生した。

 「つねづねアホになりたいと思ってきたんです、僕。でも、なかなか形にならなくて」。試行錯誤していた時、吉本の先輩芸人、宮川大輔(35)と飲みに行った。「お前はもっとけったいなことをしろ」と言われて今の芸風がひらめいた。けったいは関西弁で変、奇妙を意味する。

 「ジャリズムのころからバカバカしいことをやろうとしてきたんで、さらにけったいになろうと…。バカ+けったいの分野では追随を許さない自信があります」。

 ナベアツとして活躍する以前、実は10年にジャリズムを一度、解散。関西で人気を得たが、東京では“ボキャブラ天国ブーム”が訪れ、コントを主体とする2人はその大波に押し流された。

解散を経て平成16年に再結成したジャリズム。運命の相方、山下しげのり(左)とともに「オモロー!」でコンビのブレ−クも目指す

解散を経て平成16年に再結成したジャリズム。運命の相方、山下しげのり(左)とともに「オモロー!」でコンビのブレ−クも目指す

 「東京で仕事がなくなり、2人とも不安だった時、ビビりな山下君が『吉本の社員になる』と言い出して。僕は『なんや、お前は安定がほしかったんか』ってあきれた。そしたら彼は『吉本に言うたら、お前が社員になれるか、ボケ!と言われたから、もう1回コンビやらへんか』って。ほんまアホでしょ」

 愉快に振り返るが、当時は再結成する気になれなかった。「僕もお笑いをやるテンションが上がってなかった。芸人として地に足がついてへんかった」。もう一度、お笑いを勉強したい、と構成作家に専念した。

 「最初は芸人と作家の二足のわらじを履いたろ、と思ったけど、作家の厳しさを知って、2年に1回、勉強したことをライブでやろうか、という形になりました」

  表舞台から遠のくナベアツを引き戻したのは、やはり山下だった。15年冬、ダウンタウンの松本人志(44)がライブ前に楽屋を訪ね、「お前の相方、芸人やめるらしい」と一言だけナベアツに告げて帰っていった。

 「なんで松本さんは、僕の大事なライブ前にテンションが下がることを言うんやろって考えて、『お前が止めろ』って意味なのかなって…」。早速、山下に「再結成しようや」と電話した。

 「そしたら『いいですね!』ってめっちゃ食いついてきて、僕は『しまった』と。松本さんにそれを伝えたら、『そんなつもりまったくなかった』と言われるし」

 平成16年、めでたく!?コンビが復活した。現在も「笑っていいとも!」「めちゃ×2イケてるッ!」などで構成作家の仕事を続けているが、再び芸人に軸足を置いて、収入は4分の1に減った。

 「正直もったいないとは思う。表舞台に戻った理由? もうひと花咲かせたい、とかはない。ただ、アホでおもしろい人になりたいだけ」と漫画「天才バカボン」が大好きな38歳は笑った。

 最近、ナベアツが広める「オモロー!」も、ちまたで流行している。「オモローは山下くんのギャグなんです。彼は才能ある人だな、と思うし、コンビ仲も悪くないけど、個人的にはあんな人、大嫌いです!」とにっこり。

 「ジャリズムとしてもオモロー!で行くでっ!!」と、今度は“世界のジャリズム”にのし上がることも誓っていた。


■世界のナベアツ

 本名・渡辺鐘(わたなべ・あつむ)。昭和44年8月27日、滋賀県生まれ。中学校の同級生にお笑いコンビ「ますだおかだ」の増田英彦がおり、「中川家」も同じ中学校出身。高校卒業後、吉本総合芸能学院(NSC大阪)の10期生に。平成3年11月に同期の山下しげのりと「ジャリズム」を結成し、ボケ役を担当。10年12月に解散後、構成作家として活躍するも、16年2月にコンビを再結成し、表舞台へ復帰した。今年のR−1ぐらんぷり3位となったピン芸ネタ、世界のナベアツで大ブレーク中。身長1メートル74、血液型B。

★伝説のネタは床のマス目から

 「3の倍数と3の付く数字だけアホになります」のネタ誕生秘話とは…。ある時、駅ビルを歩いていたら、変な色の床を発見。

 「僕は、床のマスを1個1個数えながら歩くのが好きなんですが、その駅ビルのマス目が3つおきにほんまにアホな明るいどどめ色やったんです」。そこでアホな色の時だけ、アホな声で数えてみたら、“いち、に、さぁ〜ん”。「これはイケる!」とライブで披露したら客が大爆笑。「でも、こんなに世間にウケるとは思ってもみませんでした」と本人もびっくり!

★リベンジの舞台

 4月26、27、29日に千葉・幕張メッセで開催される史上最大のお笑いフェス「LIVE STAND 08」にナベアツも参戦。昨年に引き続きコンビでの登場はもちろん、ピンでもステージに上がる。「昨年はウケる以前に、お客さんが僕らを優しく気遣う反応でしたからね。今年は必ず“オモロー”なことをします。ただ、山下くんというネタをスベらせまくる『妖怪・笑い吸い』がいますからね」と心配げだが、爆笑へのリベンジを約束。チケット発売中。