« 民族自立と自分の立場 | トップページ | AERAマネーで紹介されました »

2008年4月19日 (土)

やはり現場で勝負したい

ある財団から面白いオファーを受けました。流通支援を基本とした人材支援を通じて平和構築を実現しようという企画。パレスチナで実験的に実施しているらしいのですが、それをスリランカとパッケージ化することを考えているらしいのです。かねがね、平和構築の基軸に利益分配を考慮した流通整備と営利事業の構築を据えてきた自分としては、まさに遣り甲斐のあるオファーです。

私はスリランカの著名なNGOであるセワランカ財団と緊密な関係を構築することにより、今スリランカ産の農産物のプロモートや余剰米を利用したバイオマスペレット事業に携わっています。それはすでに何回か述べたように思います。

最近では、家畜銀行の制度とリサイクルシステムの融合により、生産から消費、そして棄却から再生までをカバーしたトレーサビリティ制度の構築の可能性を、スリランカを舞台に実現しようとも企画しています。

これらの企画は、全てセワランカ財団というすばらしい団体と出会ったことにより、可能になりました。

私と彼らが共有している理念の一つに、生産技術面の支援だけでなく、流通やマーケティングといったフィールドでの支援も実施することにより、着実な平和構築につなげるというものがあります。生産された利益の分配をカバーしてこそ、はじめて平和構築が可能になるという考えに基いたものです。

今回のある財団からのオファーは、かつて私がそのようなことをある方にお話していたことを耳にしてのことだそうです。

JICAや国連をはじめとした多くのODA事業は、貧困削減と平和構築を支援事業の基軸理念としています。しかし、両理念を一致させた事業というのは、滅多にみかけることは出来ません。

貧困削減を目的とした事業の場合、貧困層の支援が言葉通り目的となるため、ターゲットは最貧困層に設定します。フィールドが農業の場合は、生産面の支援に特化する場合が多く、流通制度の構築は「営利のフィールドである。特定営利集団のための事業になりかねない」と敢えて支援しない場合が多いのです。

また、平和構築にしても、緊急支援や紛争後の武装解除といった側面での事業は、多数見かけますが、経済成長や貧困支援という概念と結び付けたかたちでの、長期的平和構築支援というのは、ほとんど無いと言っていいでしょう。

かつて、開発コンサルタント時代、ある農業関係の支援事業に携わった際、私はそのドナー団体に「本当に貧困支援をやりたいのであれば、ターゲットを生産者ではなく、むしろ消費者に置いたほうがいい」と提言したことがあります。消費者に安全で安価な食料を供給することを目的にしたほうが、流通面もカバーした効率的で包括的な支援事業の構築が可能になるからです。無論、その案は「ターゲットは貧困層でなくてはいけない」とのことで、却下されました。

流通整備に基く貧困削減とステークホルダー間の交流促進、利益を共有させる分配のしくみを構築することによる平和構築、北のタミル人と南のシンハラ人の間でこれを実現できないか、私の目標の一つであり、セワランカの方々の強い思いでもあります。

セワランカ財団は、シンハラ人主体の現政府とタミル人主体の反政府組織「タミルの虎」の双方とのやり取りが出来る数少ない団体の一つです。

紛争当事者の間をまたいでの流通整備と交流の促進。パレスチナで実施されている事業と類似の事業をスリランカでも実施する。そして、定期的に両国の関係者で意見交換を実施したい。そのようなオファーをしてきた日本の財団は、平和構築を実施している財団では、恐らく最大規模のところです。引き受けない手はありません。

貧困削減と平和構築のコラボレーションというすばらしい理念を、是非実現したいという思いが、今更ながらですが、ふつふつと湧いているところです。

折角のオファー、これは実現しない手はないですね。平和構築は、なんだかんだと言いながらも、それを実現しようとする強い思いと、現場と向かい合い、事業を実施する作業からしか生まれないものだと思っています。日本の多くのメディアにおいて、欠けているものがあるとすれば、当事者の一人であるという強い意識ではないでしょうか。(坂井)

|

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/224259/40926766

この記事へのトラックバック一覧です: やはり現場で勝負したい:

コメント

コメントを書く