道路特定財源をめぐる与野党の攻防は、福田康夫首相の一般財源化の提案にもかかわらず、時間切れで暫定税率が失効し、ガソリンや軽油の値下げが実現することになるようだ。
しかし、税制関連法案について政府・与党が4月下旬に衆院で再可決すれば、再び暫定税率部分が上乗せになり、価格は元に戻る。安くなるのはありがたいものの、値下げは一時的となると、それに振り回される人たちから不満の声も出てきそうだ。
この問題について各紙の社説は、日銀総裁問題と同様に論調がそろい、暫定税率部分も維持したまま道路特定財源をすべて一般財源化すべきだと主張してきた。
国土交通省が、10年間で68兆円が必要という道路中期計画(素案)を発表したのは昨年11月13日。その翌々日に各紙の社説は、「これでは土建国家の温存だ」(毎日)、「巨費を投じる余裕はない」(朝日)、「特定財源維持ありきの国交省案」(読売)、「どこへ行った一般財源化」(産経)、「歳出改革を無視した道路財源の温存案」(日経)との見出しをとり、国交省の案を厳しく批判した。
暫定税率部分も含め今後10年間の道路関係の税収を、そっくり道路建設に回そうという計画で、06年12月の政府・与党合意の一般財源化にも反している。
もちろん、最初に出てくる案は、言い値で、そのまま通るわけはない。昨年12月7日の政府・与党合意で修正が行われた。しかし、事業費の減額は6兆円にしか過ぎなかった。一般財源に回すのは2000億円にも満たない。
翌日の社説では、「無駄な道路建設はまだ続く」(毎日)、「道路族と国交省に押し切られた」(読売)、「改革を止めてはならない」(産経)、「腰砕けに終わった道路財源の改革」(日経)の見出しが並んだ。
「道路特定財源の見直しは、無駄な道路を造り続けることを国民に示した。これが福田首相のいう改革なのか」(毎日)というように、福田首相の対応への批判が、各紙の社説の中で目立った。
そして、新年に入り国会が開かれる。「野党側の追及で、道路財源の無軌道きわまるムダ遣いが明らかになった。国土交通省職員が天下った公益法人への随意契約での割高発注など、利権の構図も暴かれた」(3月29日・朝日)と指摘するように、チェックが甘いことをいいことに、道路財源のでたらめな使い方が次々に出てくる。
こうしたことを背景に、与野党の間で修正協議が進むことが期待された。しかし、「修正協議は参院段階で」と早々と先送りしてしまった。そして、民主党が対案を参院に提出したのは2月29日になってからだった。
年度末に向け時間が経過していくものの、与党側が衆院で来年度予算案の採決を行ったことに反発し、民主党は審議拒否の戦術をとり続けた。
この状況に対し、「与野党は修正の道を探れ」(3月7日・読売)のように、各紙とも修正協議を促す社説を掲載した。
支持率が低下していることを受け、「福田首相に問われる党首力」(3月3日・毎日)として首相の指導力発揮を求める一方で、民主党には、「なぜ主導権をとらぬのか」(3月6日・朝日)と、修正協議に応ずるよう要求した。
しかし、一向に修正協議は行われず、政治は機能不全に陥り、日銀総裁が空席という異常な事態が現実になってしまう。
「国民生活巻き込む政争は許されない」(3月26日・日経)など、各紙は連日のように社説の中で混乱回避を訴え、その中で毎日は「今回は1年間だけ暫定税率を延長する。そして、その間に衆院を解散して総選挙を行い、有権者の判断に委ねるのだ」(3月27日)と具体的な解決策を提案した。
そして、福田首相が27日に緊急会見を開き、暫定税率部分も含め道路特定財源を09年度に一般財源化するなどの提案を示した。
翌日の社説では「道路特定財源制度の廃止を明確にした点で評価できる内容だ」(日経)など、各紙は、福田首相の提案を評価し、民主党に歩み寄るよう求めた。
しかし、民主党の小沢一郎代表は「暫定税率維持が首相の主張で、(会談しても)かみ合わない」と強調する。この発言を受けた翌29日の社説では、「首相は環境税などへの衣替えも視野に税制自体の見直しも表明している。折り合う余地がないとは思えない」(毎日)、「福田首相の提案を、民主党が拒むのはあまりにもったいない」(朝日)、「これをつぶそうというのでは自民党の抵抗勢力に加担することにならないか」(産経)という指摘が相次ぐ。
ガソリン代が再び上がれば、福田政権が批判を浴び、次期衆院選に有利になるということなのだろう。今の民主党にとって、道路財源問題は、選挙のための手段になっていると見るしかない。
ただし、「小沢氏は選挙前に増税を口にするのは愚策というのだろう。だが、国民の意識はそんなに単純だろうか」(毎日)と指摘するように、世論の反応次第では、首相提案の拒否が民主党にとって不利に作用することもありうる。
いずれにしても、今回の騒動が、“ねじれ国会記念”のガソリンの期間限定安売りで終わってしまうことだけは避けてもらいたい。【論説委員・児玉平生】
毎日新聞 2008年3月30日 東京朝刊
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