政治の混迷が続く。政治不信は深まるばかりだ。社説はどう切り込み、提言をしてきたか。
年度始めである4月は例年さまざまな分野で新たな出発の季節だが、「ねじれ国会」の政治状況はガソリン税の暫定税率期限切れ、歳入欠陥発生など異例の事態を出現させた。各紙は新年度スタートの1日、別表のようにこの混迷混乱を取り上げた。
毎日は「私たちは再三、与野党に歩み寄りを求めてきたが、極めて残念」とし、日銀総裁人事も含めここまで国会が「機能不全」になった要因に、昨秋の安易な大連立構想のしくじりと、福田康夫首相が「衆院解散・総選挙をひたすら回避している」ことを挙げた。それが「表向きの対決姿勢とは裏腹」に与野党の緊張感をそぎ、「だれも責任を取らず、逆に責任のなすり合いに終始」する状況につながる。
どうする。喫緊の社会保障政策改革も含め「与野党が『大事なことは決められない国会』から抜け出せないのなら有権者が動かすほかない。衆院選でどちらの主張、政策が妥当なのか、有権者が判断するのだ」と、前の安倍晋三政権から2代続けて政権がその洗礼を受けていない解散・総選挙で民意を問うほどの決意を求めた。
朝日は「本来なら、衆院の解散・総選挙で国民の声を聞くべき局面だろう。だが、2大政党への不信がこれだけ膨らんでいる状況で、選択を迫られる国民の方も不幸なことだ」とちゅうちょを示す。そして、与党が衆院で3分の2の多数を使った再可決に踏み切らねば首相は求心力を失いかねないが、税率を戻すことに有権者の理解を得られるかどうか、一方、民主党の徹底抗戦、政治を全面ストップさせることに国民の支持は集まるかと問い、「与野党が大胆に妥協する知恵を出せない限り、どちらの主張がより有権者に説得力を持つか、とことん競い合うしかない」と結ぶ。
読売は「首相が、毅然(きぜん)とした政治姿勢を示すべき重大な局面である」と切り出し、今月29日以降に可能な衆院での再可決を「ためらうべきでない」と迫った。日経、産経も再可決支持で、歳入不足による混乱回避などを求めた。この問題について毎日は「なぜ、今の税率水準が必要か」など首相がきちんと説明しなければ「国民は再可決に納得しないだろう」とくぎを刺した。
混迷に世論は厳しい。毎日新聞の5、6日の調査で内閣支持率は24%と2割台に転落。その世論は民主党の抵抗にも辛いものだった。7日に政府提示3度目の日銀総裁人事案をめぐり民主党などは後任副総裁人事案には反対、不同意となったものの、総裁空席はやっと解消された。「日銀の歴史に癒やしがたい汚点」(毎日)▽「政治と日銀が失った信頼をどう回復していくか」(読売)▽「政治に翻弄(ほんろう)されて失われた日銀の信認の回復は容易ではない」(産経)など各紙社説はこれも政治混迷の産物として批判した。
こうした状況の中で、9日に国会で久しぶりに行われた首相と小沢一郎民主党代表の党首討論は大方の予想に反して熱を帯びた意見や批判の応酬があり、各紙の社説もおおむね評価した。
毎日は「やればできるじゃないか」と皮肉を込めたが、「気の抜けたビールのようだった前回(1月)の討論とは打って変わって、双方の主張には真剣さが感じられた」と認めた。他紙も、「ようやく党首討論らしくなった」(日経)▽「党首討論はいつもこうあってほしい」(朝日)▽「これまでで最高におもしろい党首討論だった」(東京)とした。読売は「首相の反転攻勢には、民主党との対話路線が実を結ばないことに対する、強い苛立(いらだ)ちがうかがえる」と指摘した。
建設的論議を尽くしたとはいえぬ1度の党首討論が盛り上がった印象を与えるのは、逆にいえば、それだけ政治が内向きに停滞し、国民の生活感覚から遠ざかっているからだともいえる。
毎日は、福田政権発足後から半年以上経過しているのに党首討論がやっと2回目という少なさを突き「ねじれ国会だからこそ、わが国の行方に責任を持つ、各院の多数党の代表が公開の場で丁々発止の論争を繰り広げることを期待している国民は多い」「有権者は党首の言葉を通じて、政治現象と政策の判断材料、視点を得ることができる。党首の国民への説明力が試されている」と頻繁な討論を求めた。東京も「それでこそ、有権者の審判の材料がそろう」とし、朝日も「勝敗は民意に聞きたい」と見出しをつけた。
11日、政府・与党は道路特定財源の09年度からの一般財源化など基本方針を決めた。野党協議に向けたものだが、あいまいな点もあり、各紙社説は別表のように注文をつけた。毎日は(1)道路に大半が使われるのでは看板付け替えにすぎず、整備中期計画の大胆な圧縮が必要で、生活道は地方に任せよ(2)この改革を少子高齢化、経済グローバル化を見据えた新しい税体系に位置づけよ、と提言。与党にも野党にも「10年、20年先を見据えた建設的な提案を」と求めた。
「ねじれ」「混迷」状況だからこそ、政治家には強い発信力、先を見通す構想力が問われている。【専門編集委員・玉木研二】
毎日新聞 2008年4月13日 東京朝刊
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