国内炭、掘り出しもの 原油高騰で再脚光2008年04月19日15時01分 国内で採れる石炭に、再び光があたり始めた。暮らしの中では見かけなくなったが、石炭は発電やセメント、鉄の生産に欠かせない。日本は世界一の輸入国だ。原油や輸入炭の急な値上がりで、北海道で細々と掘っていた石炭が割安になり、見直しの機運が広がっている。
地表をパワーショベルがひっかくと黒い石炭層が筋状に現れた。 「幅4メートルはある」と声が上がる。 北海道内陸部の上砂川町。鉄道の廃線跡からほど近い高さ70メートルほどの丘陵が階段状に切り開かれ、ダンプカーが行き交う。国内8カ所の現役炭鉱の一つ、三美(さんび)炭鉱だ。 かつての三井砂川炭鉱と三井美唄炭鉱の跡地にある。トンネルで地下を掘り進める「坑内掘り」が盛んに行われ、太平洋戦争中には計1万2千人以上が働いていた。 輸入炭に押され、87年からは、掘り残しを地表から採る「露天掘り」だけに。それでも採算の合う場所は限られ、経営する三井鉱山の子会社、北海道三鉱石油は、あと2年で掘り終える予定だった。 ところが昨年1月、顧客の北海道電力が「供給を続けて」と頼んできた。世界的な原油の急騰で、三美産が「買い得」になったからだ。 三鉱は、いまの採掘地から10キロほど離れた美唄市内の山中に新鉱区を開く方針を決めた。手つかずの場所だが、石炭があると確信できる理由がある。1951年につくられた手製の地質図だ。畳1畳ほどの日焼けした和紙。赤鉛筆でデータがびっしり書き込んである。「クマもいる山中に先輩たちが何カ月も寝泊まりし、調べていた。うちの宝物」(大内武巳社長) 現場の意気も上がる。ダンプのハンドルを握る鈴木裕さん(58)は、炭鉱一筋30年余り。「明るいニュースは久しぶり。新しい場所でも、ぜひ働きたい」 美唄市では、三菱マテリアルの子会社も新鉱区の開発を計画中だ。増産分は青森県にあるグループのセメント工場で使う考え。国内炭利用は18年ぶりという。 電力卸のJパワー(電源開発)も横浜市の火力発電所で国内炭を海外炭に混ぜて利用できないか、検討に入った。 「復活」には限界もある。新鉱区は露天掘りばかり。坑内掘りなら生産量を増やせるが、危険を伴い、投資もかさむ。「露天で掘れる場所は限られ、生産量は増えても1割程度」と専門家は口をそろえる。国内消費の1%に届きそうにない。 石炭は燃やした時に出る二酸化炭素の量が原油や天然ガスより多く、「地球温暖化につながる」との批判もある。 「それでも」という人がいる。北海道大学の樋口澄志名誉教授(資源開発工学)。「海外から原油や石炭を運ぶには大量のエネルギーを使う。その分も考えれば、近くの石炭を使うほうが二酸化炭素排出が少ない」と訴える。 近くNPOを発足させ、6月にシンポジウムを開催。「石炭をガス化して発電効率を高める」「石炭層に二酸化炭素を注入し、替わりに浮上する天然ガスを使う」といった内外で研究中の技術を紹介し、「財政難にあえぐ産炭地の再生につなげたい」。 美唄市教育委員会は、小学校の副読本の記述を再検討している。市内の炭鉱の歴史は、相次いだ事故や70年代の坑内掘り中止で終わっているが、「国内炭の見直しも、しっかり教えたい」と村上忠雄教育長。エネルギーの供給で日本経済を支えてきた誇りを、子どもたちに伝えたいからだ。(山本精作) ◇ 〈石炭〉 入り江や湖に堆積(たいせき)した植物が、長い年月を経て熱や圧力で変化したものと考えられている。石炭紀と呼ばれる約3億6千万〜2億9千万年前の地層から多く出るが、国内では1億年未満の「若い石炭」が多い。発電やセメント生産に使うのが一般炭、製鉄用は鉄鉱石と反応させる材料でもあるので原料炭という。国内の電気の4分の1は石炭が燃料。テニスラケットや釣りざおにも石炭を原料とする炭素繊維が使われている。 PR情報ビジネス
|
ここから広告です 広告終わり ここから広告です 広告終わり 株価検索どらく
鮮明フル画面
一覧企画特集
特集
朝日新聞社から |