2008年4月19日

ペドロ（フェリース・三塁手）は僕のキャッチボール・パートナー。
一番よく話をする相手でもあります。
ヨメに言わせると、その外見は「哲学的」。ラテンとは思えない
寡黙さと穏やかさに加え、いつもじっくり何かを考えているような表情で、
独自の世界を築き上げています。

今日も試合前に、クラブハウスの喧騒から逃れ、
トレーナー室のベッドで話に花が咲きました。
家族のこと、文化のこと、言葉のこと・・・。

去年までジャイアンツにいた彼は、家族をサンフランシスコに残しての
単身赴任。今度の遠征でサンフランシスコに帰れるのをとても
楽しみにしているのです。
「日本食が好きでねー。サンフランシスコは日本食がすごくおいしいんだ」
「そうやね」
「牛肉のブロッコリー炒めだろー」
「・・・うん・・・？」
「それに、チャオメン？っていうの？あの柔らかい焼きそばにいっぱい野菜が
入ってるアレ」
「・・・・」

サンフランシスコは確かに日本人人口も多く、本格的な和食を堪能できる町ですが、
ペドロの考えている「日本食」は、限りなく中華料理と混同されていると思うのです。
サンフランシスコで本物をご馳走することで、
いつもスペイン語を教えてくれているペドロへの授業料ということにするつもりです。

今日はノーヒットで試合後落ち込んでいたペドロ。
「こんなに恥ずかしい試合をして、もう生きていけない・・・さようなら・・・」
そう言うと、靴を脱いで揃えて、水風呂に沈んでいきました。
僕は彼の気持ちを汲んで、バケツ一杯の氷をそっと浴槽に流し込みました。

目を固く閉じたその顔に、氷水風呂はやけに似合う。
ああ、岩の上とか大きな木の下にも座らせてみたい・・・。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

2008年4月18日

試合前に「アジアン・パシフィック・サラブレーション」というイベントがあり、
ヨメと一緒にフィールドで紹介されました。毎年恒例のこのお祭りは、アジア各国のコミュニティーが
徐々に参加し始めて、どんどん大きくなっているそうです。
フィラデルフィアのアジア人、といえば、チャイナタウンのある中国人。そして、韓国人。
セントルイスから来た人間にとってはびっくりするほど大きな中華・コリアンマーケットがあって、
食材などには事欠きません。

さて、日本人は、というと、町なかではまず見かけなくとも、今日参加されていた方から、
１０００人ほどの日本人がこの町で暮らしていると教えていただきました。
中西部に初めて住み始めたころも、そして、フィラデルフィアでも、
日本人にとって決して快適ではない環境の中で生きる人々を、尊敬せずにはいられません。
残念ながらいいところを見せられなかったものの、
（どこかに、きっと同じ思いをしている人がいる）という気持ちが、同胞意識というものを生むのだと
強く感じました。

さてこのイベント、アジア各国の踊りなどをフィールドで披露します。
僕らにとっては、同じ「アジア」でも、東南アジアは日本や中国、韓国と大きな違いがありますが、
見ているアメリカ人にとっては、アジアといえばアジア。その違いを知る人は、残念ながら少ないのです。
そして、フィリピンの、竹の棒を飛び越える踊りを見て、
（きっと俺もあれが上手だと思われてるんやろうなあ・・・）と確信。

どちらかというと、日本人よりははるかにフィリピン側に近い自分の容姿を考えると、
もしかして僕のような存在が、アジアが全部一緒に見える、
という誤解を与えているのでは、とつくづく思ってしまいました。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

2008年4月17日

フィリーズで初先発。なんとか２本ヒットが出たものの、
まわりのみなさんがアホほど打つので、
「２本？だから何？」という程度の一日となってしまいました。

その中でも、やはりチェイス（アトリー・二塁手）のバッティングが光ります。

フィリーズでも一番人気の彼は、礼儀正しくマジメな選手。
研究熱心、練習熱心で、試合のビデオなど、「目が悪くなるからやめとけ」と
言いたくなるほど見ています。加えて、天性のバッティング。惚れ惚れします。

とにかく、無駄がないのです。欲がないのです。
ボールが来たから「うりゃー、いったるでー！」という力任せな部分が
まるでない。まったく力が入っていないように見えるきれいなスイングは、
「えっ？そんなに軽く打っても行っちゃうの？」と驚かせるほどに、
ボールを簡単にスタンドに放り込みます。
まるでボールのほうから、バットに引き込まれて来ているよう。
よく考えたら、２００２年のアリゾナ・フォールリーグ（若手教育リーグ）でも
彼の姿は見ていたのですが、彼とライアン（ハワード・一塁手）二人を
（いい選手やなー）と思った僕の目は正しかった。

僕にとっては理想のチェイスのスイング。しかし、それを真似できるかというと、
なかなか難しい。このあたりが「天性」の違いで、ちょっと悲しい。
でもせっかくチームメイトとして、間近で素晴らしいバッティングを見られるのだから、
せめて、ゴルフのスイングにでも、生かさなければ・・・。

ペンシルベニア州フィラデルフィアにて　田口壮　

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