存続へ「公有民営化」案 秋田内陸線廃止の危機
「やっと光が見えてきた」。詰め掛けた沿線住民が思わず声を上げた。 今月5日、県議有志でつくる秋田内陸縦貫鉄道研究会が北秋田市で開いたフォーラム。講師が公有民営化の仕組みや利点を説明すると、参加者の表情が緩んだ。 内陸線は乗客数がピーク時の半分に減り、運行会社はここ数年、毎年約2億6000万円の赤字を計上している。レールなど施設の老朽化も著しく、約9億円の補修工事を施す必要に迫られている。 県などの試算では、運行区間の縮小や運行本数の削減をしても、赤字はほとんど減らない見通し。寺田典城知事は「存続は厳しい」との認識を示し、廃止が不可避とみられていた。 <国の補助に期待> そこへ急浮上したのが公有民営化だった。地域公共交通活性化・再生法改正案が今国会に提案され、公有民営であれば、国から財政面の支援が得られる可能性が大きい。 具体的には鉄道事業を運行・車両維持と、施設・土地の保有とに分離し、自治体が施設と土地を持ち、運行会社へ無償貸与する。運行会社の赤字は約1億円圧縮され、老朽化対策にも一定の国庫補助金が受けられる。 フォーラムで講師を務めたNPO法人全国鉄道利用者会議(東京)の清水孝彰理事長も「公有民営化が内陸線を維持する有力手段になることは間違いない。積極的に名乗りを上げるべきだ」と早期の検討を促した。 だが、沿線自治体は必ずしも公有民営化に前向きではない。運行会社の社長を務める岸部陞・北秋田市長でさえも、「国の支援があるので全体的には良い方式だが、自治体は負担が重くなるだけ」と戸惑いを隠さない。 北秋田市や仙北市などの沿線自治体は2006年度からの再生計画に基づき、運営会社の赤字補てんとして毎年1億円以上を負担している。公有民営化すると、さらに最大8700万円の支出を強いられる。 地方交付税など歳入の大幅な落ち込みで、沿線自治体の財政事情は苦しい。負担増は避けたいのが本音だ。それでも公有民営化に踏み切るかどうか、内陸線の存続は地域の判断1つに懸かっている。 <必要性の議論を> 「そこで問われるのは、なぜ内陸線が必要なのかという原点」。研究会で事務局を務める門脇光浩県議は、より深い議論を県民に呼び掛ける。 「お金を出せる出せないよりも、沿線のまちづくりや観光振興の議論が、まず先だ。実現したいビジョンがあって初めて、内陸線の必要性が浮かび上がる」と指摘する。 寺田知事も25日、自ら内陸線に乗車して沿線住民と懇談するなど、県民の議論喚起に本腰を入れる。地域の足はどうあるべきか。内陸線の必要性をいま一度、問い直す時期に来ている。 [秋田内陸線] 鷹巣(北秋田市)―角館(仙北市)間の全長94.2キロ。旧国鉄の角館線と阿仁合線を引き継ぎ、1989年に全線開業した。乗客数は初年度の107万人をピークに減少し、2006年度は50万人に落ち込んだ。29駅あり、1日12―14往復している。
2008年04月19日土曜日
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