縄文杉からのやはり険しい帰り道

屋久島のタフなエコツアー体験記〈下〉

大倉 寿之(2008-04-19 08:00)
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 無事に縄文杉にたどり着いた。縄文杉に対面できて、さすがに達成感でいっぱいである。ここまで4時間45分かかった。

 先に着いているツアー客も何組かいる。記念写真を撮るにもエリアが決められていてルールがある。それにしたがって、ガイドさんに撮ってもらう。自分でも撮る。

 やはり、とてつもない風格を漂わせている。根を守るために、少し離れたデッキからの眺めとなるが、覆いかぶさるようにこちらに傾斜しているかに見える縄文杉は強烈な存在感を放っていた。
こぶの多い縄文杉の木肌(撮影:大倉寿之)

 樹齢7200年というのは俗説で、実際にはもっと短いらしい。2500年前後という推定もあり(東大弥生講堂資料)、確定はしていない。それでも、独特の風格がある。

 公式に発見されたのは1966(昭和41)年ということなので、実は世に広く知られてから日が浅い。それまで深い森の中で静かに暮らしていたわけだ。年間で数万人も押し寄せる人間たちを見て何を思っているのだろうか。

 近くで昼食をとる。ハードな登山で腹ぺこなので食が進む。ガイドさんがこしらえてくれたみそ汁が格別である。

 雨脚が強くなる。あとからくるツアー客のために、早い目の退散を促されているかのようだ。およそ40分間の滞在で、縄文杉にさよならをする。会いに来てよかった。それだけの価値のある杉であった。
雨が流れ落ち、滝になる(撮影:大倉寿之)

 あとは、もと来た道を引き返すだけだ。帰りは楽だろうと考えた。しかし、甘くはなかった。縄文杉にたどり着くまでは元気だったのが、体力が消耗し始めている。足取りは重い。

 足の筋肉に負荷が大きいのは、登りよりもくだりである。特に岩の上に足を降ろすと、体重が自分の足腰にそのまま跳ね返ってくるのでつらい。木の階段や土の上は衝撃が和らぐので、やさしい感じがする。

 屋久島は花こう岩が隆起してできた島なので、岩場が多い。しっかりとした登山靴やトレッキングシューズが強く推奨されるのがよく分かった。しかも雨なので滑りやすい。2人が足を滑らせて尻もちをついた。

 縄文杉を目指して登りゆく客たちとすれ違う。中高年の方にはきつそうだ。余裕を失い、顔が真顔になっている。われわれも行きはガイドさんの案内でたくさんの写真を撮り、話を聞いたが、帰りはカメラもリュックサックにしまってしまい、無口になる。

 ガイドさんのわれわれへの評価が高いのか、やはり速い速度で帰り道を行く。寄り道までして穴場を紹介してくださる。ウイルソン株へもなかなか戻れない。「日ごろから鍛えてます」と言ってしまった手前、「ゆっくり戻りませんか」とは言えない。軽はずみなことを言ってしまって後悔した。

 ガイドさんによると、ほかの旅行社のツアーでは重軽傷者が出たこともあるという。前日には、このガイドさん自身、意識がもうろうとした登山客を見つけて救護している。ガイドブックの紹介よりもはるかにきつい行程だ。かなり体調を整えていかないと、力が尽きてしまいそうだ。

 やがてウイルソン株と再会できた。そして、さらに帰りの道を行く。ひたすらトロッコ軌道を行くことになると分かっていても、やはり苦しい。途中に昔の集落跡があるのだが、それをとりあえずの目標にする。このカーブを曲がれば出てくるだろうと予想するのだが、なかなか出てこない。延々と小さく折れ曲がりながら、早足に一行は進む。

 またもや「忍耐」の文字が浮かぶ。へこたれない、負けない、弱音を吐かない、希望を持つ、と自分に言い聞かせる。なんだかひと昔前の青春物語のようだ。

 知力はいらない、必要なのは体力だけとなる。日ごろ、小さな悩みごとにさいなまれている人は、縄文杉登山に挑戦すれば、頭の中がからっぽにできるだろう。体力のない人がひざに手をついて、ぜいぜいと青息吐息でいる。そうした人を気にかけながらも、われわれは追い越していく。

 昔の集落に着いた。すると咲き始めたばかりの桜の木で、ヤクシマザル6・7頭ほどがお食事中である。大型の哺乳(ほにゅう)類は、ヤクシカとこのサルである。両方とも登山の途中で出会うことができた。さすがに、こうした“地元住民”に出会うと元気が出る。リュックサックから再度カメラを取り出す。
桜の木にヤクシマザルがいた(撮影:大倉寿之)

 さあこれで終わり、とはいかない。ゴールまであと少しかと思うが、これが長い。40分以上トロッコ軌道を行く。しかも、枕木の敷設の間隔が不規則で歩調と合わない。

 自分の足の長さを自慢しているのではない。間隔が広かったり、狭かったりするので、一定のリズムを刻めないのである。枕木の間隔にストライドを合わせられる。だからきつい。

 途中、河原に降りて、渓流でひと休み。息を吹き返すことができた。水は命の源だと実感する。
渓流でひと休み(撮影:大倉寿之)

 再出発して、ゴールを目指す。登山口にようやく到着。帰りは、寄り道したこともあって、行きよりも長い5時間10分かかった。くたびれた。

 戻ってからもストレッチをして、体をほぐす。そうしてツアーの終了である。ガイドさんはけろりとしている。こちらは、何でもないかのような顔を取り繕うので精一杯である。

 8日間連続して、10時間の行程を案内することもあるそうだ。長距離走者は意外にトレッキングに向かないらしい。ノルディックスキーをしている人が向いているとガイドさんは言う。心肺機能が発達しているからだそうだ。

 体力に自信のない方や、混雑した登山を好まない人は、日帰りではなく縄文杉を少し過ぎたところにある小屋で泊まる1泊2日のツアーに参加する手がある。

 私は宿に帰って食事と風呂を済ませると、珍しく頭痛に襲われた。体をもみほぐしてなんとか頭痛をとり、眠りについた。布団が消耗した私の体をやさしく受け止めてくれる。こうして往復およそ20キロ、所要時間10時間の縄文杉ツアーはなんとか無事に終えることができた。
屋久島と鹿児島を結ぶ小型飛行機(撮影:大倉寿之)

  ◇

 自宅に戻り、明日から出勤となる前日、気分が重たく感じられた。それほど屋久島の日々は、都会の喧噪(けんそう)を忘れさせてくれたのだ。日常に戻りたくなくなってしまった。

 なかなか挑戦の機会は巡ってこないだろうから、今回縄文杉にトライしてよかったと思う。心に深く思い出が残った。屋久島は体力があるうちに挑戦しておいた方がいい。

 多くの人が誤解しているとガイドさんが話していたが、屋久島全体が世界遺産に登録されているわけではないことも教わった。保護されていないところでは、けっこう木が伐採されているそうだ。知らないことが、世の中にはまだまだたくさんあるものだとつくづく思った。円形の愛らしい島は、ふところが実に深かった。
倒木がいたるところに(撮影:大倉寿之)

木と木がからみあう(撮影:大倉寿之)

顔のような形をした大王杉の部分(撮影:大倉寿之)

■参考ウェブサイト
屋久島環境文化村センター

屋久島エコツアー旅樂(タビラ)
屋久島での装備一覧

【編集部中】一部字句を訂正しました。(2008/04/19 14:05)


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