須坂市周辺の須高(すこう)地域で唯一、分娩(ぶんべん)施設を置いた県立須坂病院が産科医不足で今月、お産の取り扱いを休止した。助産師外来の現場を訪ね、少子化の中で地域のお産を支える助産師や母親の切実な声を聞いた。【大平明日香】
◆かなわぬ地元出産
「最近はどう」「腰痛がひどくて」「体操をした方がいいね」。
県立須坂病院産婦人科内の助産師外来での一コマ。2人目の出産を控えた小布施町の小口美由紀さん(37)に、若い助産師さんはやさしく声を掛けた。
今月から医師の妊婦検診以外に、週1回木曜の午前に予約制の助産師外来を始めた。以前は3分程度だった医師の検診に比べ、助産師外来は約30分間と長く、じっくりと診てもらえると好評だ。
小口さんは、自宅から近い同病院で長男を出産。助産師外来を利用しており、2人目もこの病院で産みたいと思ったが、かなわずに、車で約30分かかる中野市の北信総合病院で出産するつもりだ。「自宅から遠く検診に通うのも大変。見舞いに来てくれる家族のことを考えると須坂で産みたかった」と漏らす。
◆助産師の意識も変化
「お産休止をきっかけに、助産師たちに『私たちが何とかしなければ』との意識が芽生えた」。須坂病院の助産師、本藤美奈子看護師長は彼女たちの意識の変化を感じている。昨年から力を入れ始めたのが母子整体「骨盤ケア」。「骨盤のゆがみが難産につながる」との思想から、昨年末のセミナーに助産師6人が出席し整体を学んだ。少しずつ検診に取り入れている。
◆妊婦検診と分娩の役割分担を
なぜ、地域の要望とは裏腹に、産科医不足は生じているのか。
事態を重く見た県は2月、医師確保対策室を設けて産科医を確保に奔走、研究資金の貸与や大学病院に医師派遣の打診をしている。同対策室は「縁のない土地での診察や報酬面を考慮すると、なかなか産科医を連れてくるのは困難」(内田雅啓室長補佐)と言う。
医師不足が解決できない現状では、助産師外来が地域の育児を支える役割を果たしていることが分かる。
本藤看護師長は「一つの病院に多くの患者が集中したら十分なケアができない。うまく役割分担することで、医師と妊婦の両者の負担が軽減できる」と語り、すみ分けることが最善の策と強調。引き続き助産師外来の周知に努める考えだ。
毎日新聞 2008年4月20日 地方版