社説ウオッチング

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社説ウオッチング:イラク空自違憲判断 「9条」改正論議を反映

 ◇判決に肯定的--毎日・朝日・東京

 ◇派遣継続を支持--読売・産経

 イラクに自衛隊が派遣されるといっても「復興支援」であり「人道支援」だろう。戦争はすでに終わっており、武力行使やその支援ではなかろう--。イラク復興特別措置法の是非が国会で議論された当時、これが多くの国民の素朴な認識ではなかっただろうか。

 ところが、実態は違った。イラク戦争の先頭に立ったブッシュ米大統領が戦争終結を宣言しても、イラク国内の反米組織による米軍などへの攻撃は激しさを増し、多国籍軍と武装勢力との戦闘はイラク各地で続いている。戦争開始以降、米兵の死者だけでも4000人を超えた。シーア派とスンニ派の宗派対立も衰える気配がない。

 自衛隊のイラク派遣は戦争開始から10カ月後の04年1月。陸上自衛隊は06年7月にサマワから撤退したが、04年3月から活動開始した航空自衛隊は今も約200人が派遣されており、クウェートからイラクの首都バグダッドなどへの空輸活動を担っている。

 この空自の輸送活動に憲法違反の判断を下したのが、17日の名古屋高裁の判決だった。

 ◇日経は集団的自衛権論

 判決に対する評価と主張は、各紙の社説で大きく分かれた。大別して、違憲判断を肯定的にとらえた毎日、朝日、東京、自衛隊派遣に積極姿勢の立場から判決を批判した読売、産経、そして、憲法解釈に関する論議の促進を求めた日経、という構図である。各紙の論調は、判決が空自の活動を憲法9条違反としているため、9条改正をどう考えるかという改憲論議の中心点に対する姿勢を色濃く反映するものになった。

 まず、判決の違憲判断のロジックをみておこう。判決は、イラク国内の紛争が米軍など多国籍軍と武装勢力による「国際的な武力紛争」であると認定した。そのうえで、バグダッドは米軍などと武装勢力の激しい武力衝突が起きている「戦闘地域」であるとする。そこに「多国籍軍の武装兵員」を空輸する空自の活動は、「非戦闘地域」に活動範囲を限定した特措法違反であると同時に、「他国による武力行使と一体化した行動」であり、「武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ない」として、9条に違反すると判断した。

 毎日は、判決がイラクで繰り返されている武力紛争を「国際的な武力衝突」と判断したことを重視し、指摘した。9条との関係を議論するには、武力紛争の性格をどう考えるかについて立論がなければならないうえ、特措法は自衛隊の活動を「国際的な武力紛争」のない地域に限定しているからだ。紛争が単純な盗賊などとの小競り合いなど、治安上の問題であれば9条の論議に発展しない。

 この点に関して、朝日は判決が「泥沼化した戦争状態になっていると指摘した」と述べるにとどまり、東京には記述はない。

 毎日はさらに、判決がイラクでの自衛隊の活動を合憲だと主張してきた政府の根拠を覆すものだと指摘し、自衛隊派遣を継続している福田政権に「活動地域が非戦闘地域であると主張するなら、その根拠を国民にていねいに説明する責務がある」と強調した。一方、朝日は「与野党は撤収に向けてすぐにも真剣な論議を始めるべきだ」と主張し、東京は「撤退も視野に入れた検討」を求めた。

 これに対し、読売は「極めて問題の多い判決文」、産経は「きわめて問題のある高裁判断」と違憲判断を真っ向から批判した。「戦闘地域」か「非戦闘地域」かの判断について、読売は「空港は、治安が保たれ、民間機も発着しており、『戦闘地域』とはほど遠い」と強調。産経は「政府は『バグダッドはイラク特別措置法がうたう非戦闘地域の要件を満たしている』と主張しており、空自は当たり前の支援活動を行っているにすぎない」と主張した。

 しかし、「バグダッド空港の中でもロケット砲が撃たれるということもある」(昨年6月の久間章生防衛相の国会答弁)との発言もある。ミサイル攻撃のおとりにする火炎弾(フレア)を放ちながら着陸するケースも多いという。政府の言い分をそのまま繰り返すのでは説得力に欠けよう。

 一方、日経は「戦闘地域」と「非戦闘地域」の概念自体があいまいだとし、「後方支援には幅広く参加すべきである」との立場から、集団的自衛権行使についての政府の憲法解釈の変更を求めた。

 ◇海外派遣論議に直結

 各紙は、憲法施行60年を迎えた昨年5月3日にあわせて憲法に関する社説を掲載した。9条改正は論議の大きな柱である。

 「論憲」を掲げる毎日は「あわてて改憲する必要があるのだろうか」「現行憲法の認める個別的自衛権の範囲はかなり広い」と主張した。朝日は「改正すると、戦後日本の基本軸があいまいになる」、東京は「9条こそ、(イラク戦争で)日本が柔軟に対応できる唯一の担保となっている」と述べた。3紙とも改正に慎重姿勢だ。

 一方、読売は「現在の9条のままでは、万全の対応ができない。日本の国益にそぐわない」とし、産経は「改正の核心は(中略)9条である。国の防衛は何も考えるな、とさえ読めてしまう内容だ」と強調し、改正を求めた。日経は「自衛権ないし自衛の組織保持を明記」など改正の方向を提案し、その後、集団的自衛権の行使に関する解釈変更を主張した。

 改正論議は、自衛隊の海外派遣や同盟国米国との軍事協力の内容に直結する。違憲判断に対する各紙の論調の違いは、9条改正への姿勢の差異を反映していることは間違いない。【論説委員・岸本正人】

毎日新聞 2008年4月20日 東京朝刊

 

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