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社説:官民連携ODA 援助の原点見据えて進めよ

 政府や援助実施機関と民間企業が連携して政府開発援助(ODA)案件を手がける新たな取り組みが動き出す。

 「成長のための官民パートナーシップ」と名付けられたこの仕組みは、途上国の貧困削減には政府のみならず民間部門の役割も大きいとの認識に基づいている。日本企業の支援という意味合いもある。途上国で活動している企業からの産業・社会インフラ整備などの提案を、円借款や無償資金協力、技術協力で具体化するというものだ。アフリカなどでの案件が中心になりそうだ。

 途上国にとっては、日本企業による事業展開と軌を一にして交通や産業のインフラ整備が進み、国づくりに役立つ。日本企業にとっては、円滑に事業活動を進めることができる。日本政府にとっては、援助を拡大できる。財政再建の下、日本のODA実績も経済協力開発機構の開発援助委員会加盟国中5位まで下がっている。こうした援助小国化には歯止めをかける一助にもなり得る。

 貧困削減や世界全体の持続可能な発展への寄与は先進国の任務である。ところが、01年から取り組まれている国連のミレニアム開発目標のうち、感染症まん延防止や乳幼児死亡率削減、妊産婦の健康改善などでは、アフリカの進ちょくがはかばかしくないなど、地域的な格差も生じている。官民パートナーシップはこうした目的にもかなうものにしていくべきである。

 ただ、日本では援助を官民連携で行うことや民間主導での案件の組成には今でも批判が少なくない。それは過去にODAが特定の企業や政治家などの利権になっているといわれてきたからだ。援助を受ける国の政権の腐敗を助長しているともいわれた。そうした疑いを持たれないように、実施のプロセスを透明にし、それを国民に明らかにしなければならない。

 官民パートナーシップの枠組みでは、民間からの提案を関係省や実施機関が開発効果や国際ルールなどの観点を前提に検討し、採用するかどうか決めることになっている。ODAである以上、個別企業のためでは国民の納得が得られない。その案件を実施することで援助を受ける国の経済社会の発展にどれだけ役立つのかが第一である。温暖化対策や砂漠化防止、熱帯林減少など地球環境対策との連携も考慮していくべきだ。

 日本の援助の中で、国際的に高く評価されているのが草の根・人間の安全保障無償資金協力だ。草の根という言葉に表れているように、海外NGO(非政府組織)など草の根の活動に規模の小さい援助を行っている。先行的な官民連携といってよい。今回も、援助の原点を忘れることなく、途上国本位の案件作り、実施を心掛けるべきだ。そうすることで「日本の顔」も見えてくる。

毎日新聞 2008年4月20日 東京朝刊

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