Tomotubby’s Travel Blog
Tomotubby と Pet の奇妙な旅 Blog。
時系列順にお読み下さい。複数の旅行記が断続進行中かも。
 
  |  Asia 「圓」な旅   |   2005年10月29日  |  

前回(←物凄く残酷な話です)ご紹介したジョン・ゾーンのアルバム「凌遅 LENG TCH'E」のジャケット写真は、ジョルジュ・バタイユが自著「エロスの涙」に載せていた「凌遅刑」の四枚の組写真のうちの一枚、それもバタイユの所有していたという一枚の写真をトリミングしたものでした。以前、大学の図書館で絵画の図版の多い「エロスの涙」のページをパラパラとめくっていて、これらの写真を見つけて目が釘付けになり、残酷なシーンが暫く網膜に焼きついてしまった経験があります。

バタイユは写真に次のような注をつけています(手元にあるのは筑摩書房版で翻訳がひどいですが引用してみます)。
これらの写真は、一部分、デュマとカルポーによって発表された。カルポーは、1905年4月10日に処刑を目撃したと証言している。1905年3月25日、「政報」は次のような皇帝布告を出した(光緒帝の治下)。「モンゴルの諸王は、アオ=ハン王殺害の罪を犯したフー=チュ=リなる人物を火刑に処すべしと要求しているが、帝はこの刑をあまりに残酷なものとみて、フー=チュ=リを<凌遅(刻み切り)>による緩慢な死に処する。これを尊べ!」 この処刑は、満州王朝(1644〜1911)とともに始まったものである。
火刑があまりに残酷なので凌遅刑に処すというのが理解できません。火刑と凌遅刑を比較するなら、まだ火刑の方がましではないか。皇帝の言う「緩慢な死」ほど受刑者にとって辛いものはないのではないか。と思います。当時、光緒帝は、康有為・梁啓超らを登用して行った変法運動に失敗して、西太后によって幽閉されていた筈ですから、この皇帝布告自体が誰によって書かれたものなのか甚だ怪しいですが(参考HP)。

バタイユの注釈の最後の部分には誤りがあります。清の滅亡は1912年の筈ですし、「凌遅刑」は清以前から存在していました。「凌遅」が処刑として正式に認められたのは、宋に先立つ五代十国時代のようで、その後の統一王朝、宋・元・明においても、「凌遅」は見せしめを目的とした処刑法として採用されてきたのです。明代に書かれ、宋代を描いた「水滸伝」においても、「凌遅」のシーンは登場しています。行者武松や黒旋風李逵の登場する回です。李逵に至っては切り刻んだ人肉を食べたりしています(どうも李逵って人は好きにはなれないです)。

なお哀れにもフー=チュ=リが凌遅に処せられた1905年は、なんと凌遅刑が廃止された年でもありました。前々から「あまりに残虐すぎる」と非難され、清王朝で幾度となく廃止が建議されてきましたが、西洋列強の圧力もあり、この年に完全に廃止されたのです。カルポーが目撃したフー=チュ=リは、もしかすると最後の凌遅刑体験者だったのかもしれません。

こうして奇跡的に残されヨーロッパに伝えられた凌遅刑の写真は、精神分析学者ボレル博士を通じてバタイユに渡り、彼を大いに触発しました。バタイユはフー=チュ=リの「緩慢な死」に臨む表情を見たとき、サディスムとしての一面のエロティシズムと宗教的な恍惚感という、ある意味で対極にあるような二つの感覚が生じ、実のところこれらは同根であることを述べています。

ネットで調べていると、ヨーロッパで流通した凌遅刑の写真は、バタイユ著書に所載の四枚のほかにも、別の二枚が存在することがわかりました。これらを時系列に並べてみると、撮影者は「見物者」の視点で執刀のプロセスをクールなまでにカメラに収めています。バタイユの紹介した四枚は刑の前半部分で、残りの二枚はその続きの後半部分になっているのです。バタイユが指摘するように、「緩慢な死」においてフー=チュ=リは終始どこか恍惚とした表情を浮かべており違和感があります。

計六枚の写真です↓(残酷すぎるので、気の弱い人はくれぐれもクリックなどしないように)


さらにジョルジュ・バタイユの「エロスの涙」の一文に、というより所載の「凌遅刑」の写真に触発され、メキシコの作家サルバドール・エリソンドが「ファラベウフ―あるいはある瞬間の記録」という小説を書いています。これは未読なので読んでみようと思っています。ヌーヴォーロマン風と紹介されているから、アラン・ロブ=グリエの「快楽の漸進的横滑り」 みたいな感じかな??


↑この絵は、自分における凌遅のイメージ。
後で、藤野一友「抽象的な籠」という絵で福岡市美術館所蔵であることを知りました

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