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中国のフランスを標的にした抗議行動 諸刃の剣の「愛国主義」
【北京=野口東秀】フランスを主な“標的”に中国各地で発生した抗議行動は、当局が事実上、黙認した結果だといえる。国民の「愛国主義」が背景にあるためだ。しかし、靖国神社参拝問題などを背景にした2005年の反日デモのように抗議行動が暴徒化すれば、北京五輪を前に国際社会の批判が強まるだけではない。国民の不満は胡錦濤政権へ向けられかねない。「愛国主義」は諸刃の剣といえ、当局も「愛国主義の理性化」を呼びかけ始めた。
武漢で発生した大規模な抗議行動を当局が許可したかどうか不明だ。しかし、当局は積極的に阻止する措置は取ってはいない。北京のフランス大使館に対する抗議行動では、大使館の前を周回した車両の後ろにはパトカーがついていた。
こうした一連の対応からうかがわれるのは、「愛国主義」を掲げての抗議行動を「弾圧」することは基本的にできない、という姿勢だ。また、「国民の反フランス感情をガス抜きする」(消息筋)という側面もあったとみられる。
チベット騒乱後、当局ははメディアを通じ、五輪開会式欠席などの動きや、欧米メディアによる中国批判の報道を厳しく非難し、国民の憤りと愛国感情をあおっている。だが、その一方では抗議行動が過激化することは避けなくてはならない。五輪を前に封じ込めてきた土地、家屋の立ち退きや、貧富の格差などに対する不満が国民の間には鬱積(うっせき)しており、それらの連鎖を恐れているからだ。
19日の共産党機関紙「人民日報」など各紙は「空前の愛国主義主義の熱情が起こっている」としたうえで、「感情は自然なものだが、理性的にあるべきだ。愛国の感情を社会の安定、国家の発展、民族振興のために注ぐことが『最大の愛国』だ」との評論を掲載した。抗議行動の熱を冷まそうとしたものだ。
中国が「世界に大国としての団結と理性と知恵、抱擁と自信を見せる」(同紙)ことができるのか、今後の抗議行動の行方と当局の対応が注目される。