中国がチベットを手放せない理由(1)
2008年4月16日 ビデオニュース・ドットコム
ゲスト:ラクパ・ツォコ氏(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所代表)ラクパ・ツォコ氏 |
しかし、騒乱発生直後から、チベットへの通信網は遮断され、外国メディアの立ち入りは禁止された上、自治区内にいた外国人たちは強制的に退去させられていたため、チベットで何が起きているかについて、正確な情報の入手は難しい状況が続いている。
それにしても国際的な批判をよそに、中国の一貫して頑なな対チベット強硬姿勢には、違和感を覚える人も多いはずだ。
そこで今週のマル激では、ダライ・ラマ法王日本代表部事務所代表のラクパ・ツォコ氏を招き、チベットで起きていることの現実と、そうした状況に対するチベット人たちの思いを語ってもらった。
ダライ・ラマの立場は一貫して非暴力主義であり、一連の騒乱には、まったくダライ・ラマが関与していないと断言するラクパ氏は、そもそもこのデモの発端は、チベット市内の寺院で、中国政府に対する平和的な抗議を行っていた数人の僧侶たちへ警察官が暴力を振るったことだったと言う。それを目撃したチベット人たちが激昂し、デモに拡大していったと言うのだ。以前からこの程度の抗議活動はチベット人の居住地域では頻繁に発生しており、それがいつ爆発的に拡大してもおかしくはないほど、チベット人は中国政府により抑圧されてきたとラクパ氏はチベット人の不満を代弁する。
ラクパ氏はまた、1959年ダライ・ラマ14世がインドに亡命して以来、中国政府は、鉄道や道路のインフラを整え、チベット自治区を豊かにしたと自負しているが、経済的な恩恵を受けているのは移住してくる漢民族だけであり、チベット人との間には歴然とした格差が存在していると言う。それがまた、チベット人たちの不満につながっているのだ。
天然資源が豊富なチベットは中国にとって戦略的にも重要な土地であるため、中国は決してチベットの独立を許さないだろうと語るラクパ氏に、チベットの現状と見通し、そして日本政府に期待する役割などを、ジャーナリストの武田徹と社会学者の宮台真司の2人が聞いた。
中国のチベット弾圧は日本の中国侵略の繰り返し
ラクパ:今回ラサで起きた暴動について、裏でダライ・ラマ法王が絡んで洗脳しているとして、中国政府は法王を批判しているが、私たちチベット人からすると全く根拠のない話だ。法王自身も国際的な調査チームをチベットに送って、徹底的に調査をすべきだと仰っている。また、法王のいるダラムサラまで中国の首相に来てもらい、根拠となるものがあるのか法王や書類を公開して調べたらどうかと提案している。今回の事件に関して、ダライ・ラマ法王と亡命政府が絡んでいるというのは全く根拠がなく、中国政府は都合のいいことを言っている。中国にも一応法律があるように見えるが、実際の肝心の所では共産主義の党や政府の関係者が自分たちの都合の良いようにやっている。
今回の暴動が起こったきっかけは、理由がたくさんあって1つに絞れない。1949年から今日まで、中国政府によるチベット人への弾圧や差別、人権侵害があり、宗教や集会の自由もない状態が続いている。そのようなことが繰り返されている中、ラサにあるラモ・チェという寺の5、6名の僧がデモをしていて、中国人の警察によって逮捕された。それによって手足が不自由になってしまった僧の姿を周りのチベット人たちが見て、腹を立てて周りに呼びかけたのがきっかけの1つだった。
宮台:中国の若い学生達は、日本が中国を侵略したことに対して強い憤りを持っているが、旧日本軍が中国に対してやったことと同じようなことを、現中国政府がチベットに対してやっているという事実を彼らは知らない。
ラクパ:日本政府や国民は50年前に中国に対してやったことについて何度も謝っているが、中国政府は自身ができる限り有利になるように、日本に対してODAなどをしつこく要求してきた。
しかし、日本のメディアや政府関係者で50年前の罪を認めて謝っている人はいても、今現在の中国がチベットに対してやっていることを指摘する人は今までいなかった。我々チベット人にとっては非常に悔しい。
無事に家に帰れるか分からない生活
ラクパ:現在、チベットには外国メディアなどが入ることができず、チベット人にとってはものすごく大変な状況だ。徹底的に弾圧され、逮捕された人たちは水や電気、医療設備などを全く使えない。怪我をしている人間に水や食料を提供するのは政府がすべき常識のはずだが、中国ではそれらが全くない。チベットの中にいるチベット人達は、朝、家を出るとき、夜に家まで戻って来られるか分からないような覚悟でいる。
宮台:中国政府や新華社通信側からの情報と全く違う情報だ。インターネットなどを使って、チベットから外に情報を知らせていくことはできないのか?
武田:我々はどうも正しくない情報を伝えられてきたと思うが、ラクパ氏は現地の人からどのような手段で情報を得ているのか?
ラクパ:私たちが聞いた話によると、電話やラジオ、インターネットなどは完全に遮断されているとのことだ。
BBCやCNNなどが中国国内で見られないのと同じように、チベットに情報が入らないようにされている。特にチベット語で放送しているラジオ局は世界中にいくつもあるが、それらは全てチベットで聞くことができないようになっている。
亡命政府には人権センターや防衛省があり、その中の特別な部が現地の情報を収集している。中国政府がいくらチベットの情報のチャンネルを塞ごうとしても、人間がどうしても伝えたいと思う情報は自然と外に出て行く。チベット人がどれくらい殺されているのか、といった事実は明確になるのは、もはや時間の問題だ。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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