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読む政治・選択の手引:医療費(その1) 75歳、生活再設計 新制度、家族にも影響

 ◇金のない人は医者に行くなと言うのか…

 「何や、私はどこにも入ってへんの」。兵庫県西宮市役所で今月初め、信濃純代さん(73)は職員に確認した。医療保険未加入の状態で数日過ごしていた。

 後期高齢者(長寿)医療制度は、75歳以上が対象だ。しかし社会保険に入っていた77歳の夫が新制度に移ったのに伴い、扶養家族だった信濃さんは、新たに子どもの扶養を受けるか、国民健康保険に入る手続きが必要だったのだ。

 小泉内閣の06年6月に成立した医療制度改革関連法。現役並みの所得がある70歳以上の窓口負担が3割に増えたことなどに比べ、後期高齢者医療制度創設は一般の注目を集めなかった。新保険証が届き、年金からの天引きを知ったお年寄りが役所に殺到するのは、制度が始まってからのことだ。

 信濃さんの夫の保険料は新制度で年間11万円増えた。信濃さんの国保保険料を含め夫婦の負担増は年14万円に上る。「老後の生活設計もやり直し」と言う。

    ◇

 日本有数の豪雪地帯、岩手県西和賀町。佐藤ヒデさん(77)は、運送会社で働く長男正一さん(59)家族と同居する。亡夫の遺族年金が主な収入だ。

 正一さんの扶養家族のヒデさんは、保険料を払う必要がなかったが、新制度で徴収対象に。政府・与党合意で半年間は免除されるが、10月に年金からの天引きが始まる。

 正一さんは年収約350万円。妻と共働きで家計を支える。原油高の影響で運送会社の賃金も頭打ち。自宅の冬の灯油代は月4万円ほどで、この1年半で倍近くになった。

 岩手県の平均保険料は年4万7733円。ヒデさんに保険料額の通知はまだない。月1度、町の送迎バスで高血圧の薬をもらいに通院する程度だが、健康への不安はある。「昭和1けた世代は長生きするもんではないかもな。ハハハ」。笑い飛ばすヒデさんだが、その目は厳しかった。

    ◇

 同じ西和賀町の北部にあった旧沢内村は60年、全国に先駆けて65歳以上の医療費無料化を実現した。生活保護世帯が1割を超していた村。通院を我慢して重病になる人も少なくなく、結果的に医療費が増えていた。その悪循環を断ち切るための措置だった。

 73年から20年間、村長を務めた太田祖電(そでん)さん(86)は、医療費無料を守り切った。05年の町村合併で無料化の旗を降ろしたが、今も自己負担は通院月1500円、入院5000円の上限を定め、あとは町で負担する。住民税非課税世帯の65歳以上は無料のままだ。

 「国の新制度は『金がない人は医者にかかるな』と導くもの。いずれ日本は、無料化前の沢内村のようになるのでは」。太田さんは懸念する。【佐藤丈一】

    ◆

 次の衆院選に向けた選択の手引。今回は、後期高齢者医療制度導入などで注目される医療費の負担のあり方を取り上げる。

毎日新聞 2008年4月19日 東京朝刊

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