◎主計町が国伝建に 「金沢らしさ」に磨きかけたい
金沢市でひがし茶屋街に続き、主計(かずえ)町(まち)が国の重要伝統的建造物群保
存地区(重要伝建地区)に選定されることは、浅野川の両側に重要伝建地区が面的に広がり、金沢における茶屋街の存在感がさらに高まることを意味する。それは「金沢らしさ」が際立つことでもある。
「茶屋町」というジャンルの重要伝建地区は金沢を除けば京都の祇園新橋のみで、町並
みやそこに息づく伝統芸能にしても京都には決してひけをとらないだろう。他の文化資産も着実に国指定・選定を実現させ、「金沢らしさ」に磨きをかけたい。
重要伝建地区を目指す取り組みとしては、高岡市でも選定済みの山町筋に続き、高岡鋳
物発祥の地である金屋町で今年度から建造物群の基礎調査が始まる。これも職人の町としての「高岡らしさ」に磨きをかける取り組みであり、準備を怠りなく進めてほしい。
主計町では名もない坂が五木寛之さんによって「あかり坂」と命名され、その坂が登場
する小説が発表された。三茶屋街の芸妓(げいこ)衆による「金沢おどり」の総踊り曲として村松さん作詞の「金沢風雅(ふうが)」も誕生した。伝統的な町並みが保たれ、伝統芸能や茶屋文化が健在であるからこそ新たな物語や歌が紡ぎ出されるのだろう。主計町が国の「お墨付き」を得たことは、そこから新たな文化が生まれる期待感を抱かせる。
文化審議会の答申では、金沢城公園の鶴丸倉庫の重要文化財指定も決まった。石川門、
三十間長屋に続く重文指定であり、国史跡指定が見込まれる金沢城跡の価値に厚みが増すことになる。金沢市内では前田家墓所も史跡指定される見通しで、辰巳用水、卯辰山山麓寺院群などの調査も進んでいる。世界遺産運動の中で「城下町」の輪郭が明確になってきたことが実感できる。
城郭や用水といった土木遺産はどちらかといえば男性的なイメージだが、格子が続く茶
屋街のたたずまいは女性的である。金沢に深い陰影を与えるのもそうした町並みや文化の対照だろう。世界遺産運動は金沢の「城下町」としての個性を際立たせる意義をもつことをあらためて認識したい。
◎善光寺の五輪辞退 仏教徒としての心情理解
長野市の善光寺が五輪聖火出発式会場の辞退を決めた最大の理由は、チベット人と同じ
仏教徒として、弾圧を黙って見過ごすわけにはいかないという意思表示だろう。その思いは多くの国民にも共通するのではないか。平和の祭典を象徴する聖火が本来の目的を果たすどころか、「争いの火種」になっている状況では、善光寺の辞退はやむを得まい。
アテネの採火式からロンドン、パリ、サンフランシスコと、世界を回る聖火リレーは、
行く先々で混乱を起こしている。戒厳令を思わせる厳重な警備の下、チベット支持者は隙あらば聖火を奪い取ろうとし、屈強な中国人の「警備隊」がこれを蹴散らす。そんなまがまがしい聖火リレーに、どんな意味があるのだろう。
善光寺関係者の間では、境内を会場に貸すと、中国によるチベット弾圧を間接的に支援
することになる、などの深刻な懸念が示されたという。貴重な文化財や信者の安全を犠牲にしてまで、聖火リレーに手を貸す理由は見つからなかったに違いない。
西欧諸国では政府首脳や有力政治家がチベット弾圧について厳しい口調で非難し、五輪
開会式のボイコットまで話し合っているのに、日本政府や与野党の政治家は、面と向かっての批判を控えている。日本の政治家が物言わぬなかで、善光寺の寺務総長が「チベットで無差別な殺人が行われて仏教者が立ち上がり、それに対する弾圧が行われている」などと憂慮を示した意味は大きい。
善光寺に代わる出発地について、善光寺に続く参道を使う案もあるようだが、警備に必
要な広さが確保できるだろうか。それより、聖火コースのほぼ中間点にある長野冬季オリンピック大会のスピードスケート競技会場などが、有力な候補地になるのではないか。
聖火リレーの意義が大きく色あせた今、十八・五キロの道を三時間かけて回る当初計画
にそれほどこだわる必要はないと思われる。安全と混乱回避を第一に考えて、全体計画を練り直してほしい。状況次第では、コースの大幅短縮をためらってはならない。