年一回春に、大学時代の恩師を囲んで、同窓十人足らずが一泊で集う習わしだ。今年もついこの前あった。そのなかで、今も大学とかかわりをもっている女性が、実学志向ばかりが目立ち、教養がないがしろにされる現状を嘆いた。
実学志向もさることながら、わが時代はマイナスイメージでしかなかった産学協同は当たり前に定着し、「シューカツ」とカタカナ表記される就職活動は、三年生の秋から本格化する。
あれやこれや様変わりの実情は、教養の場などと悠長なことは言っていられないのかもしれない。いい悪いの話をするつもりはさらさらないが、実学など思いの外で、シューカツももっとゆっくりめに展開できたわが時代、大して勉強をしたとは思わない代わりに、本だけはご飯を食べるみたいにがつがつと読む余裕があった。興が乗れば徹夜で議論もした。
それがなんになっているかといえば、皆目見当がつかないし、なんにもなっていないかもしれない。それはそれでいいではないかと思う。教養は栄養と違って、結果が単純に表れることはない。ないが、取りすぎてメタボになるということも、またないのだ。
大学全入時代らしい。あくまで経済事情が許せばのことではあるが、大学が極めて入りやすくなった分、今度は学校間競争が激化し、就職率にしても研究成果にしても、すぐに結果が求められ、大変なんだと恩師も言う。
過ぎし日のことは誰しもよく思える。その点を差し引いたとしても、老いゆく身に出るはため息ばかりである。
(特別編集委員・横田賢一)